転職、異動、昇進、転居、結婚、子供が生まれるなど、人生には様々な節目があります。たとえそれが結婚や昇進のような良い変化であっても、乗り越えるのは大変だった、そんな風に感じたことはありませんか。

今日は、米国の組織コンサルタントであり「変化」の権威として知られるウィリアム・ブリッジズの「トランジション理論」をベースに、なぜ節目を乗り越えるのは大変なのか、どのように節目を乗り越えるべきなのかをお伝えします。トランジション理論はチェンジマネジメントを実践する上で欠かせない理論で、発表から30年以上経った今もチェンジマネジメントの現場で活用されています。

変化とトランジションは違う

トランジション理論では、変化(チェンジ)とトランジションを別のものと定義しています。変化とは、新しい場所へ引っ越す、仕事上の役割が変わる、離婚するなど、状況が変わることを意味します。一方、トランジションとは、心理的に変わること、つまり、変化がもたらす新しい状況について理解を深め、受け入れるプロセスです。このプロセスを乗り越えなければ、結果は生まれません。

例えば、就職は「変化」です。就職してすぐに結果がでるわけではありません。あなたが学生から社会人になったときを思い出してみてください。社会人生活に慣れるまで時間がかかったのではないでしょうか。新しいことにチャレンジする不安を感じたり、1日中慣れない環境に身を置いて、家に帰ったときにはぐったりしませんでしたか。でも毎日仕事を続けることで、徐々に社会人生活が板について、仕事で結果が出せるようになったのではないでしょうか。学生という古い状態から社会人としての新しい状態に慣れるこのプロセスがトランジションです。

トランジションの3つの過程

トランジションは、私たちが古い状態から離れて、新しい状態に飛び込むプロセスです。そのため、トランジションは古い状態を終わらせることから始まります。ブリッジズは、トランジションを、1. 終わり、2. ニュートラルゾーン、3. 新たな始まりの3つの過程で定義しています。

1.終わり

最初のステップは、過去の習慣、生き方、ものの考え方、関係性などを手放すプロセスです。多くの場合、喪失感を感じます。良い変化だとこのプロセスに気づきにくいのですが、どんなトランジションでも必ずこの段階を通ります。
例えば、管理職に昇進する場合。今まで取り組んできた現場の業務を手放すことになるかもしれません。かつての同僚たちと今までのようには接することができなくなるかもしれません。求められていることが変わり、今まで慣れ親しんできたやり方は通用しないかもしれません。トランジションは、このような今までのやり方、関係性、考え方などを手放すことから始まります。人は、この手放すというプロセスに抵抗を感じます。そのため、終わりを受け入れることは、トランジションの中で最も難しいプロセスです。

2.ニュートラルゾーン

ニュートラルゾーンとは、古いやり方は手放したものの新しいやり方にはまだなじんでいないという状態で古い現実と新しい現実の間です。自分が何者なのか、どのようにふるまうべきなのかがわからなくなり、空虚感を感じる、不安が高まる、自信がなくなる、混乱しやすくなどが起こります。変化が深刻な場合、この期間は何カ月、何年と続くことがあります。無駄な時間のように感じられますが、この時間は非常に重要です。この間、次のステップに進むきっかけになるシグナルを受け取り、意識の転換と再構成が起こります。

3.新たな始まり

トランジションから抜け出し、新たな始まりを迎えるフェーズです。この時期に新しいアイデンティティが確立し、新たな意欲や目的意識が生まれ、変化が本当の意味で影響力を発揮し始めます。

トランジションをどのように乗り越えるのか

人生の節目、トランジションを乗り越えるのは簡単なことではありません。しかし、少しの工夫でトランジションを混乱や不安を軽減することができます。そのポイントを3つお伝えします。

1.トランジションの過程を認識する

大きな変化に直面したら、自分がトランジションにいることを意識してみてください。喪失感や空虚感、不安や焦りを感じても、そういう感情が起こるのは自然なことだと認識し、自分がなぜ今そういう気持ちになっているのかを理解することが大切です。

2.手放すべきものは何かを考える

何を手放すことになるのかを知ることで、喪失感を客観視することができ、冷静な視点が生まれます。今までの考え方、信念、夢、目標、関係性などが、未来では通用しないこと、新しいスタートを切るためには手放さなければいけないことを認識することで、トランジションを前向きに進めることができます。

3.トランジションで過ごす時間の必要性を認める

トランジションの間、地に足がついていないように感じたり、振り出しに戻っているように感じたりして、無駄に時間を過ごしていると焦ることもあるでしょう。ですが、焦って逃げ出すと、次の段階に進むために必要なものを見出すことができません。トランジションを通過するには時間がかかるということを認識したうえで、明けない夜はないと信じ、焦らず過ごしてください。トランジションは自分と向き合うことが大切なので、一人になれる特定の時間と場所を確保するのがよいでしょう。毎日30分一人で散歩をする、毎朝他の家族よりも1時間早く起きて一人で過ごす、など、静かに過ごせる時間を作ってみてください。

最後に

あなた自身が組織内で変革を推進する立場にあるなら、意識していただきたいことがあります。それは、誰しもトランジションを潜り抜けるためには時間を必要とするということです。変革の計画を立てるときには、対象者が心理的に変化を受け入れられるように、十分な時間をとることをお勧めします。急いで「変化(Change)」を導入しても、トランジションが終わらなければ、結果は出ないのですから。

参考

ウィリアム・ブリッジズ(1994)トランジション パンローリング