はじめに

日本チェンジマネジメント協会では、チェンジマネジメントを以下のように定義しています。

組織を「現状」から「目指す状態」へと移行させ、期待するベネフィットを達成するための手法。

体系化されたアプローチ(プロセス、ツール、ノウハウ)を使って、変革による混乱を最小化し、変革の目標達成の可能性を最大化する。

ここではチェンジマネジメントの基本的なコンセプト、およびチェンジマネジメントプロセスを説明します。

 

チェンジ(変革)はプロセスである

チェンジとは単独の事象ではなく、組織・ステークホルダーを現状からあるべき姿に移行させるために発生する複数の様々な事象から成り立つトランジション(移行)プロセスです。

組織体制が変わる、新しいルールを適用する、新システムを導入するなどの目に見える状況の変化は一瞬にして起こりますが、目には見えない「変化を受け入れる従業員の心や行動」はすぐに変えることはできません。従業員は、自分たちが変わらなければいけないことに気づき、「新しい状態」で期待されることを理解し、「新しい状態」で必要となるスキル・考え方を知識として身につけ、その知識を業務に適応できるように使いこなして自分のものにするという一連のプロセスを経て、「新しい状態」に適応するのです。

変化の導入は、一時的に混乱を生み、パフォーマンスの低下を引き起こします。チェンジマネジメントは、変化によるパフォーマンスの低下を最小化し、変革によってもたらされるベネフィットを最大化する効果があります。

チェンジマネジメントを行わない場合、変化への適応がうまくいかずパフォーマンスが下がったまま戻らない、古いやり方が残り続ける、もしくはいったん新しいやり方が導入されたのに古いやり方に戻り、変革の効果を実現できないという結果になりかねません。

チェンジマネジメントの効果
チェンジマネジメントの効果

そのようなことを避けるため、チェンジマネジメントでは以下のようなことを行います。

  • 組織の変化へのレディネス(準備状態)、柔軟性、適応性を高める
  • ステークホルダー(関係者)の変革へのエンゲージメントを高める
  • 変化によるパフォーマンス・生産性の低下を最小化する
  • 変革導入後のパフォーマンスの向上を最大化する
  • ラーニングカーブ(学習曲線)を最小化し、新しいやり方への適応を加速させる
  • チェンジの定着を促し、変革による効果の持続を担保する

次の章で、具体的にチェンジマネジメントで実施するプロセスをご説明します。

 

チェンジマネジメントプロセス

チェンジマネジメントプロセスは大きく以下の5つの段階で構成されています。

1
変革を診断する

変革の内容と変革が組織に与える影響を精査し、組織がその変革を受け入れることができるのかを調査

2
変革の戦略を策定する

どのように組織を現状からあるべき姿に変革させるのかのアプローチを検討し、チェンジマネジメント戦略を策定

3
変革の計画を策定する

変革推進のために必要なアクション、スケジュール、リソースなどの計画「チェンジマネジメント計画」を策定

4
変革を導入する

チェンジマネジメント計画を実行、活動の管理・状況のモニタリングを行い、変革の導入を促進

5
新しい状態を維持する

変革の導入後、導入状況をモニタリングし、期待する状況を達成しているかレビュー

 

1.変革を診断する

このフェーズでは、変革の内容と変革が組織に与える影響を精査し、組織がその変革を受け入れることができるのかを調査します。

具体的には以下のようなことを行います。

  • なぜ今変わらなければいけないのかを定義する
  • 未来の姿の明確なビジョンを策定する
  • 巻き込む必要がある関係者、および変革の影響を受ける人を洗い出す
  • 組織の変化へのカルチャー、力量、レディネス(準備状態)を評価する
  • 変革推進リーダーたちが変革プロジェクトを理解し、コミットしているかを評価する
  • 変革推進のアクションを洗い出すためにリスクや成功の見込みを評価する

  

2.変革の戦略を策定する

このフェーズでは、どのように組織を現状からあるべき姿に変革させるのかのアプローチを検討し、チェンジマネジメント戦略を策定します。チェンジマネジメント戦略では、変革による効果を実現するためのゴールを達成するため、変革プロジェクトの規模、スコープ、複雑性を踏まえたうえで、以下の内容を定義します。

変革活動の要件、導入オプション、課題、制約、成功基準、指標、RACI(役割と責任)、ガバナンス、タイムライン

具体的には以下の内容をカバーします。

  • コミュニケーション計画を策定する
  • スポンサーシップ戦略を策定する(トップのタスク明確化)
  • ステークホルダーエンゲージメント戦略を策定する
  • チェンジインパクト戦略とチェンジレディネス(準備状態)戦略を策定する
  • 教育・トレーニング戦略を策定する
  • ベネフィット実現(Benefit Realization)戦略を策定する

 

3.変革の計画を策定する

このフェーズでは、変革推進のために必要なアクション、スケジュール、リソースの計画「チェンジマネジメント計画」を策定します。チェンジマネジメント戦略では、WHY(なぜ)とWHAT(なに)を定義するのに対し、チェンジマネジメント計画ではHOW(どのように)を定義します。

チェンジマネジメント計画は、変革活動のスコープやどのように変革を実行、管理、監視するかの計画をまとめたものです。具体的には以下の内容をカバーします。

  • どのように変革活動を推進するのか、誰が何を行うか
  • どのように変革を導入・維持するのか
  • 活動推進の前提、課題、リスクなど。

チェンジマネジメント計画を策定するとき、以下の点を考慮します。

  • 従業員が「新しい状態」で業務を遂行するために必要となるスキル・能力を得るための仕組み
  • 「新しい状態」で期待される行動や態度を定着させるための仕組み。その導入の進捗をどのようにモニタリングするのか

 

4.変革を導入する

チェンジマネジメント計画を実行、活動の管理・状況のモニタリングを行い、変革の導入を促進します。具体的には以下のようなことを行います。

  • チェンジマネジメント計画を実行、管理、モニタリングする
  • リソース計画を実行するコミュニケーション計画を実行する
  • スポンサーシップ計画を実行する
  • ステークホルダーエンゲージメント計画を実行する
  • 教育・トレーニング計画を実行する。

また、必要に応じてチェンジマネジメント計画を修正します。

 

5.新しい状態を維持する

変革の導入後、導入状況をモニタリングし、期待する状況を達成しているかレビューします。必要に応じて、変革が定着するよう追加で対策を講じ、変革が目指していた目標を達成し、成果が上げられるよう促します。

成果が達成後、ステークホルダーと成功を祝い、最後に、プロジェクト結果をレビューし、ベストプラクティスを定義し次の変革に活かします。

 

チェンジマネジメントコラム

参考