4月19日の日経新聞朝刊に「中途採用10年ぶり伸び DX人材底上げ」という見出しの記事が載っていました。

日経がまとめた調査によると、主要企業の2021年度の中途採用が20年度比16%増え、10年ぶりの高い伸び率になっています。

背景にはDX人材不足の懸念。経済産業省は2030年に最大79万人のIT人材が不足するとみており、多くの企業は即戦力の専門人材を増やさないと生き残れないと危機感を抱いています。しかし、DX人材を採用するだけで問題は解決するのでしょうか?

 

DXの失敗の主な要因とは

マッキンゼーの調査によると、DXの成功率はわずか16%。トラディショナルな業界(製造、エネルギー、インフラ、製薬)での成功率は4~11%に留まるそうです。

DX変革の障壁は何なのか。

マッキンゼーが実施した2135名の経営者へのインタビュー結果によるとその主な課題は、技術的なものではなく、経営者のコミットメントや理解度、企業の文化やデジタル人材の不足といった、人・組織にまつわる要因が上位に上がっています。(以下の図参照)

デジタル変革が失敗する要因の割合 出典:McKinsey & Company

人材の採用だけでは不十分で、文化や組織面の課題への対応が必要なのです。

マッキンゼーはこの調査レポートの中で以下のように提言しています。


DXを推進する上では、慣性によって元の姿に戻ってしまわぬよう、変革状況の見える化や、社員に変化を感じさせるような演出をするといった要素も重要となる。こうしたデジタル施策の推進とチェンジマネジメントの仕組みを作り、一気に変革を進めるべきである


「慣性によって元の姿に戻ってしまわぬよう」という点をおろそかにすると大問題になる、その例としてみずほ銀行のシステム障害が挙げられます。

 

4500億円をかけシステム刷新したみずほ銀行、障害頻発

みずほ銀行は、過去に2度の大規模システム障害を起こし社会的な混乱を招きました。3度目を起こすまいと2019年7月に4500億円の巨額を投じて、銀行の心臓部にあたる基幹システムを刷新。しかしながら、新システム導入から2年、再びシステム障害を起こしたのです。

今回、以下のポイントから組織の脆弱性を露呈しました。

  • 2月28日から2週間足らずで計4回のシステム障害
  • 短期間で立て続けに発生しただけでなく、それぞれ異なる要因で別々のトラブルが発生
  • 顧客をはじめとする関係者への対応のまずさ、感度の鈍さ

特に対応のまずさ、感度の鈍さは多くの非難を受けました。例えば2月28日9時に発生したATM障害。全国の約8割にあたる4318台のATMが一時動かなくなり、現金を引き出そうとした利用者のキャッシュカードや預金通帳をATMが取り込んだ件数は5244件に及ぶ大きな障害でした。にもかかわらず、担当部に障害の連絡があがったのは午後1時過ぎ。本部が顧客への対応で明確な指示をだしたのは午後5時半という対応の遅さ。

みずほ銀行のATMシステム障害

4月5日に坂井社長は、一連のシステム障害の報告書を説明する記者会見で、システムをめぐるトラブルは組織的な能力の低下などが招いたとの認識を示しました。

システムの運用面においては「全体を俯瞰した確認が不十分だった」と総括。新しい勘定系システムが安定的に稼働していたことで、制御を手掛ける担当者を減らし、システムを構築したベンダーからなる組織は解散していました。「組織的なスキルやノウハウが低下すると共に、横断的なチェックや統制が十分に機能しなくなっていた」

坂井氏は「仕組みだけ作っても十分ではない。それを担う人と組織を強化する必要がある」とも述べ、システム運用に携わる人材を強化する考えを示しました。

透けて見えてくるのは、自社システムのナレッジがシステム構築をしたベンダー依存になっていたこと、開発ベンダーから自社の人員に運用移管が適切に行われず、横断的にチェック・統制できる状態になっていなかったことです。

 

繰り返される障害と解決されない根本原因

みずほの組織的な問題が明るみになったのは、これがはじめてではありません。

2011年の2度目の大規模障害のとき、日経コンピュータは次のように指摘しています。


みずほファイナンシャルグループの経営トップは勘定系システムの刷新を現場任せにして、情報システムのことを理解せず、必要な資金や人員を投入する決断ができなかった。経営陣のIT軽視、IT理解不足が、大規模システム障害の根本的な原因だった


それから10年経った今、みずほはまた同じ課題に直面しているのです。

また、今回の3回目のシステム障害を受け、NIKKEI Financialには以下のように言及しています。


ある金融庁幹部によると「行内のヒエラルキー(序列)が問題の奥底にある」とみる。一般的に銀行は、稼ぐ部門の序列が高く優秀な人材を集めている。コストセンターで人員削減の対象とみられているシステム部門の序列は相対的に低くなりがち。

システムは銀行経営そのものといわれながら、システム畑出身の銀行トップはほぼいない。三菱UFJフィナンシャル・グループや三井住友フィナンシャル・グループのトップはシステム部門の経験者で、長期視点でシステムに精通した人材を配置してきた。他行に比べるとみずほのシステム統治は弱かった。


 

システム導入の成功が変革の成功ではない

多くのシステム導入プロジェクトにおいて、システム導入自体が目的になりがちです。しかしシステムはあくまで手段。目的は顧客へのサービス向上、自社の競争優位性の向上など、組織が永続的に付加価値を提供し続けることにあります。

チェンジマネジメントでは、以下の図のように、変革の真の目的を達成することを目指し、組織・人が「目指す状態」にいち早く適応するために、計画・実行します。

チェンジマネジメントのターゲット
チェンジマネジメントのターゲット

そのための手段のひとつとして、変革で何を変えなければいけないのかを分析する「チェンジインパクト分析」を行います。

 

何を変えなければいけないのかを見極める「チェンジインパクト分析」

チェンジインパクト分析とは、あるべき姿と現状のギャップを複数の側面から調べ、何を変えるべきなのか、どこにリスクがあるのかを分析する手法です。

チェンジインパクト分析で使用する変化の側面
現状をあるべき姿のギャップを複数の側面からとらえる

例えば、システム刷新において変えなければいけないのはシステムだけではありません。

みずほのケースを例にすると、以下のようなことを変える必要があると考えられるでしょう。


考え方:「システムは銀行経営そのもの」という考え方を根付かせる。そのために評価指標の変更、人材採用・活用戦略の変更、考え方を変えるための教育などを実施

役割:システムの根幹をベンダーに任せる体制から自社内でまかなうように役割を変更。またシステムを横断的にみる役割と各システムを専門で見る役割を明確に定義

コミュニケーション:縦割り体制・多階層組織体制はサイロになり、情報の流れが悪くなる傾向がある。情報の流れを円滑にするための組織体制の検討、ツールの活用、コミュニケーションの場などを定義

ナレッジマネジメント:ナレッジには文書化できる形式知と文書化はできない暗黙知があることを意識したうえで、ナレッジを共有する仕組みづくりを作る。例:お互い学びあうピアグループ、他部署に行って知識を学ぶ社内インターンなど

組織:ビジネスの根幹であるシステムを役員レベルで理解が不足しているという状況は、さらなるシステム障害を招く可能性があるため、他行のようにシステム経験者を役員に採用など、組織変更で役員レベルのナレッジ強化・マインド改革を行う


まとめ

いかがでしたでしょうか?

確かにDX推進のためにはDX人材は不可欠ですが、それだけでは成功しません。変革成功のために何が必要なのかを分析し、変革が日常業務に定着するまでの対応を行うことは、成功には欠かせないのです。

変革の準備をされるときに参考にしていただければ幸いです。

参考