先月6月8~11日の3日間、米国のチェンジマネジメントプロフェッショナルの団体ACMP(Association of Change Management Professionals)主催の2021 CHG MGMT Global Connectが開催されました。

このイベントは、数百の変革リーダー・実践者が世界24か国から参加し、80以上の講演やワークショップで構成される、正に最新のチェンジマネジメントが学べる場です。その数々のセッションの中から、これからいくつかご紹介いたします。

今回ご紹介するセッションは、人事のチェンジリーダー3名のパネルディスカッション「チェンジマネジメントからトランスフォーメーションの促進へ:人事リーダーの視点から」です。

チェンジマネジメントにおける人事の役割

日本では、変革に関連する部署や情報システム部で、事務局・PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)を担い、プロジェクト活動の一環として、変革に関わる人の問題(チェンジマネジメント)に対処するケースが多いと思いますが、欧米では人事の1機能としてチェンジマネジメントの専門組織や専任者を置くことが少なくありません。

背景には、多くの場合欧米の人事部は、上層部と各ビジネスユニット(事業部)の橋渡し機能を担っていること、また、組織変更、人員再配置、上層部や管理職レベルのトレーニングなどの人事戦略が、通常の変革で欠かせないことなどがあります。

今回のパネルディスカッションのゲストである人事リーダーは、現場の最前線で組織のチェンジマネジメントを支える人たちです。

変化の激しい昨今、変革の現場でどのような課題に直面し、どのように対処しているのか、彼らのチェンジマネジメントがどのように進化しているのかを語っています。
日本の状況とかなり違うことが伺える非常に興味深いセッションです。 

セッション参加者

モデレーター:
ブリオカウンセル エグゼクティブアドバイザー クリスティーン・デニー

パネリスト:
アイヴァンホー・ケンブリッジ タレント&組織エフェクティブネス開発 シニアアドバイザー マーティン・ビルナブ 

ビジネス・デベロップメント・バンク・オブ・カナダ 組織エフェクティブネス アシスタントヴァイスプレジデント エリーズ・サントーバン

UNIファイナンスコーポレーション タレントマネジメント ヴァイスプレジデント ダイアン・アレイン

チェンジマネジメントは進化している

クリスティーン(モデレーター):
チェンジマネジメントは1980年代から大きく進化しています。

1980年代
チェンジマネジメントは「チェンジ(変化を伴う)プロジェクト」を支援することが主な役割でした。この頃、業務要件に合わせてシステムを手作りすることが主流だったので、システム導入が業務に大きな変化を与えることはなく、チェンジマネジメントの必要性は限定的でした。

1990-2000年代
SAPなどのERPシステム、その他パッケージシステムを導入することが主流になり、システムに合わせて業務を変更することが求められるようになり、あわせてチェンジマネジメントの必要性が高まりました。

2010年代
外部コンサルタントがチェンジマネジメントの機能を担う時代から、事業会社内でチェンジマネジメント機能を担う時代にシフトします。
2014年以降はトランスフォーメーションの時代に突入。組織にとって、チェンジは恒久的かつ絶えず続く活動に変わります。
複数のプロジェクトが同時に走ることが多くなり、全社横断的なプロジェクトが増え、それに伴いプロジェクトに関わる関係者が増加。プロジェクトの複雑性は高まります。
しかし、激しい環境変化に対応するため、変革導入の期間は短くなり、社員は一度に多くの変化に晒されるという状況になっています。
このような変化により、現在のチェンジマネジメントは、より流動的に、より人中心に、より有機的になっています。また、プロジェクトをサポートするという機能ではなく、従業員や変革リーダー、組織全体の変革をサポートする機能に変化を遂げています。

パネリストの皆さんの組織でも同じようなことが起こっていますか?

複数のプロジェクトが同時に進行、全社横断的なプロジェクトが増え、プロジェクトの複雑性は高まる

ダイアン:
まさにその通りです。弊社では「変革活動」にかなり投資をしています。なぜなら、変革は従業員に影響を及ぼすだけでなく、顧客に影響を及ぼすからです。

そのため、変革の計画・管理の手法を進化させることは非常に重要です。人事だけではなく、リスクオフィサー(リスク管理責任者)も変革について語ります。特にリスク軽減戦略については大きく進化しています。企業にとって変革によるリスク対策を行うことは必須だからです。

エリーズ:
弊社も常にチェンジマネジメント機能・能力を発展させ、かなり成熟度は上がっています。しかし同時に、変革の複雑性・スピードはどんどんトランスフォーメーショナル(変革的)になっています。デジタルトランスフォーメーションやカルチャー変革のような変革が主流で、もはや、テクノロジーのチェンジ(変化)ではありません。新しいマインドセットや行動を適用するという段階になっており、以前とはフォーカスが変わってきています。より厳しい状況なっていると感じます。

マーティン:
弊社に関しては、今、産業全体が変革しています。変革のペースは今まで以上に速くなっています。このような環境下で欠かせないのは、変革を行う意味、変革のビジョン、自社の変革が産業の変革とどのように紐づいているのかを明確にすることが非常に重要です。よりアジャイル(俊敏)に変革を推進し、変化に適応する能力が求められています。

変革のプロセスを見直す必要性

クリスティーン:
2019年ウォールストリートジャーナルは「管理職や経営層への調査から、彼らの主な懸念が変革に関連するリスクであることが明らかになった」と発表しています。
ハーバードビジネスレビューは「いまだ、大規模変革プロジェクトの70%は変革のゴールを達成していない」と言っています。
ギャラップ(Gallup)の調査によると「全世界の84%の従業員が仕事にエンゲージしていない」という結果が出ています。
そして、フォーブス(Forbes)は「2018年のデジタルトランスフォーメーション活動において9000億ドルが無駄に終わっている」と述べています。

このように数字の多くがチェンジマネジメントの難しさを物語っています。

皆さんの組織において、チェンジマネジメントにおける一番の課題は何でしょうか?このようなトランスフォーメーション(変革)にどのようにチェンジマネジメントが貢献できると思いますか?

マーティン:
我々のチェンジマネジメントチームは、変革活動を会社のビジョンや戦略と連携させるということに力を入れています。変革に時間をかけすぎたり、ゴールにたどり着けないというようなことがないようにリスクを管理しています。

ダイアン:
変革活動が戦略的な方向性と合っているか、全体を俯瞰し、ガバナンスや役割を明確にし、適切な形で活動が進むよう対応しています。また、変革のKPIにも注力しています。何が変革のターゲットで、どのように測るのか、どのように変革活動を発展させるのかを考えています。

組織のなかで変革のビジョンを共有

クリスティーン:
これまでは各部の変革活動が各々ゴールを設定していましたが、今は、会社全体の変革の目標が掲げられ、その目標をベースに各活動の優先順位が付けられるという形にシフトしています。これを実現するためには、変革のビジョンを組織に広める仕組みが必要ですが、皆さんの組織には、そのような仕組みがありますか?

ダイアン:
弊社では1年半前にパーパス(目的)ステートメントやバリュー(価値)を再定義し、その活動のなかで従業員を巻き込み、パーパスを浸透させました。今でも、パーパスやバリューは頻繁に出てきます。CEOのメッセージは、常にパーパスとつながっており、部門長や部長、広報チームもそれに倣っています。毎月の進捗会議も、組織のパーパス(目的)に沿って運営されています。

会社のパーパス(目的)に基づいたメッセージを発信するCEO

マーティン:
これまで以上に、各プロジェクトと会社の戦略的な計画を一致させることが求められています。そして、それが従業員にどのように影響するのか明確に伝えることも求められています。
我々は、ストラテジック・プロジェクト・コミッティというものを設け、そこで会社の計画とプロジェクトを連携させています。まだ改善の余地はありますが、会社全体の方向性に沿って、各部署の活動を進めるというモデルに変わってきています。

チェンジマネジメントのスキル

クリスティーン:
以前は、継続的な改善・改革を直列で順次的に進めていたので、リーダーは何を変えるのかに重きを置いていました。
しかし、今、様々な活動が同タイミングで起こるため、どのようにあるべきなのか、どのようにカルチャーを変えるべきなのかに重点を置く必要性が出てきています。そのためには体系立てられたアプローチが必要です。
皆さんの会社ではどのような状況でしょうか?

チェンジマネジメント能力はマネージャーの必須トレーニングになっている

エリーズ:
変革推進力は、すべてのリーダーの必須能力になっており、「Leading Change(変革の推進)」というトレーニングを必須科目として、リーダーに提供しています。組織のチェンジマネジメント能力を伸ばすのは、チェンジマネジメントチームだけでなく、リーダーの要件になっています。
また、チェンジマネジメントチームに関しては、組織開発のスキル、デザイン思考、チームビルディングスキルなど、求められる能力が幅広くなっています。

マーティン:
今までは必要に応じて、マネージャーや従業員にチェンジマネジメントのトレーニングを行っていましたが、いまはすべてのマネージャーの公式トレーニングとして実施しています。
また、新しい試みとして、アンバサダー制度を導入しました。これは、プロジェクトの最後で、プロジェクト経験者をアンバサダーとしてトレーニングし、次の変革プロジェクトをサポートしてもらうという仕組みです。アンバサダーが経験者として次のプロジェクトで活躍してくれるので、人事内のチェンジマネジメントチームは、彼らのコーチとしての役割にシフトすることができ、スキル向上にも役立ってています。

ダイアン:
企業文化やバリューを通じて、マネージャーや従業員とチェンジマネジメントスキルを高めたり、責任範囲を広げるという事を行っています。また、変革後会社のバリューがどのような意味を持つのかや、バリューを通じた各々の役割をカジュアルに話し合う場を設けています。

まとめ

セッションを通じて、
環境の変化にあわせて変革のペースがこれまで以上に速くなり、変革活動が自体が複雑化するなか、組織におけるチェンジマネジメントチームの役割がプロジェクトのサポートではなく、組織の変革を実現させる機動力にシフトしていることが改めてわかりました。

特に彼らチェンジマネジメントチームが、

  • 会社ビジョン・戦略と各変革プロジェクトの活動の目的を一致させること、複数のプロジェクト間での一貫性を担保することを主要な役割として担っていること
  • 変革を定常的な活動と捉え、変革活動およびそのリスクを管理するためのガバナンスの仕組みを設定していること
  • 変革のKPIが会社の戦略を一致していることを俯瞰的に管理し、結果をモニタリングしていること
  • チェンジマネジメントがリーダーの必須科目として位置付けられていること

が印象的でした。

皆さんのご参考になれば幸いです。

参考