業務プロセス改革、システム導入、マニュアル作業の自動化など、大きな変化を伴うプロジェクトの推進において、壁になるのは、
社員の「現状への固執」です。
- うちの業務は特殊だから、パッケージソフトのプロセスは合わない
- 今のエクセルでの業務で十分。システムを入れる必要はない
- レポートのフォーマットは今まで使っていたものと同じでないとダメだ
- そんなやり方はうちには合わない
このような抵抗に対して、きちんと対策をうたずに、その場しのぎで対応していると、新プロセスやシステムを導入後、大きな問題が発生する可能性が高くなります。
- 新しいシステムによって以前よりも業務効率が悪くなった
- システムが使いづらいので、元のやり方に戻ってしまう
など、本来の変革の目標が達成できないリスクが生まれるのです。
チェンジマネジメントを行う場合、プロジェクト初期の段階で、変化への抵抗対策を事前に計画し、リスクを最小限に抑える施策をうちます。
抵抗対策は早ければ早いほどいい
抵抗対策は、初期の段階で計画しておくことが一番です。
それには以下の2つの理由があります。
関係構築・状況把握には時間がかかる
相手との信頼構築なしに、効果的な抵抗対策はうてません。関係性の構築は一朝一夕にできるものではないので、早い段階から取り組むことが鍵になるのです。
また、現状への固執はときにデリケートな課題を含んでいることがあります。
自分の仕事・存在価値が業務変更でなくなってしまうのではという恐怖心や、プロジェクト推進オーナーとA部署のトップの仲が悪い、いままで似たようなプロジェクトを社内で何度も行い失敗を繰り返してきたなど。これらを知らぬままプロジェクトを進めると、うっかり地雷を踏んでしまう可能性があります。そのため、どこに地雷があるのか、地雷を踏まないためにどう進めればいいのかを初期の段階で調べ、状況を把握したうえで、推進することが大切です。
関係性を構築するには
「効果的な影響力の使い方~人を巻き込み目的を達成する」
プロジェクト初期のほうが柔軟に対応できる
プロジェクト企画段階、準備段階で、抵抗によるリスクを把握できていれば、それを踏まえた上での予算取り、スケジュール策定、人員確保ができます。
後半になればなるほど、対応できる時間は限られ、対策のための予算や人員を確保することが難しくなります。
また、以下の図のように、プロジェクトが進めば進むほど、対策としてできることは限られてくるため、選択肢が多いうちに抵抗対策を計画することが成功への近道です。
変わりたくない人を変える3つの秘訣
米国ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院のネッド・スミス教授は、変革を促進するためにおさえるべきことは1.違和感、2.ビジョン、3.計画、と定義しています。
違和感
人は現状に満足している限り、決して変わろうとはしません。
変わらなければいけない人たちに「居心地が悪い」と思わせるような状況を作り出さなければいけないのです。
違和感をどのように醸成するのか。
状況によってさまざまなやり方があります。
評価指標を変える、問題の現場に出向かせる、顧客の声を直接聞かせるなど、今までの本人の前提を覆すようなデータを提示するなどが、例として挙げられます。
変革を推進する良い指標を設定するためには
「変革を成功させるKPIとダメにするKPIの違いは?」
リアルで生々しい情報、変わらなければ何が起こるのかが明確にわかるシナリオなど、感情、心に響くようなものが効果的です。
実例を挙げると、
2000年代、無印良品の業績低迷時に社長に就任した松井忠三さんは、業績悪化の原因が商品力の低下とその在庫増加にあると見抜き、社内の商品に対する考え方を変えるため、売価で100億円分の在庫を焼却処分するときに焼却の現場に社員を集めました。そして、社員の目の前で商品を燃やしたのです。
同じく2000年代、P&Gを再建したA.G.ラフリー元CEOは、技術偏重で顧客視点を無くしていた社風を変えるため、「消費者が私たちのボス(Consumer is Boss)」というスローガンを掲げます。そして、各国のトップマネジメントに、四半期に一度、自宅訪問や売り場でのインタビューを通して消費者の声を直接聞くことを義務づけました。
このような荒療治であればあるほど、衝撃を与え、人の心に火をつける効果があります。
ビジョン
ビジョンは変革で向かうべきゴールです。変革にはビジョンが欠かせません。
違和感を覚え、「変わらなければいけない」と感じても、どう変わらなければいけないのか、どこに向かえばいいのかわからなければ、前に進むことができません。
また、ゴールが提示されていなければ、当然終わりが見えません。終わりがみえないというのは、地平線だけが見える砂漠をただひたすら歩いているようなもの。「この変革はずっと終わらないのではないか」と不安に感じ、途中で燃え尽きてしまうでしょう。
システム導入などでよくあるのは、「データの可視化」「DX」「自動化」などの手段が目的に設定されること。このような目的設定がなされていると、従業員は「変革という旅」で踏ん張ることができません。
変わる先に何があるのか、努力の結果何が得られるのか、きちんと何度も従業員に伝えることが必要です。
計画
新年の抱負がどの程度やり遂げられているかご存じですか。
調査によると、新年の抱負の80%が2月までに失敗に終わるのだそうです。
変わろうという気持ちがあっても、目指す方向が明確にわかっていても、それだけでは変革は難しいのです。
一体何がほかに必要なのか。
計画です。
計画は、前に進むためには何をすればいいのかを教えてくれる道筋です。
例えば、英語が苦手な人が、半年後に英語で会議進行できるレベルの英語力をつける必要がある場合。
今まで英語の勉強をまともにしたことがなければ、どのように英語力をあげればいいのか戸惑い、前に進むことができないでしょう。とりあえず週に1度英会話に通ってみるも、伸びない英語力に、途中で気持ちが折れてしまうかもしれません。
でも、例えば、彼女に英語コーチがついたとします。
その英語コーチが、彼女のライフスタイルにあわせて、英語の勉強計画を作ってくれ、毎日1時間勉強する、週に1回コーチに進捗報告する、月に一度は英語のレベルチェックテストを受け、その結果で次の1か月のカリキュラムを決めるという道筋があったらどうでしょうか。
その人の強み弱みに合わせ、ボキャブラリを強化したほうがいい、書くのは得意だから、リスニングを強化したほうがいい、とアドバイスをもらえたら効率よく進められそうではありませんか。
さらに、英語コーチが、「いいペースで伸びているから、この調子で頑張って」と言ってくれたら、つらくても踏ん張ろうという気持ちになるのではないでしょうか。
変革を推進するときも同じです。
社員が何に戸惑いそうなのか事前に洗い出し、
トレーニングが必要なのか、メンターが必要なのか、サポートが必要なのか、進捗が確認できる仕組みが必要なのか、
を把握したうえで、最短でゴールに達成できる道筋を作り提示してあげれば、現状から新しい状態に進むことを促進することができるのです。
道筋を提示し変化を促進するには
「チェンジインパクト分析とは? 変化による影響を可視化しリスクに備える」
まとめ
いかがでしたでしょうか。
現状に固執する人を変えるというと、「交渉をどううまく進めるのか」と考えてしまいがちですが、
チェンジマネジメントの場で必要なのは、できるだけ早い段階で対策を練ること。そして、違和感、ビジョン、計画を戦略的に準備することです。
ぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。
参考
- Dr. Ross Wirth Managing Change Resistance
- Strategic Change Management, Executive Education, Kellogg School of Management
- 松井 忠三(2013)無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい 角川書店
- A.G. Lafley(2013)Playing to Win: How Strategy Really Works Harvard Business Review Press
- Why 80 Percent of New Year’s Resolutions Fail, U.S. News, Dec.29,2015