チェンジインパクト分析とは、チェンジ(変化・変革)によって、何が変わるのか、誰が変わらなければいけないのか、どのぐらい変化が大きいのかを理解し、変化によるマイナス影響を最小化する対策を洗い出す分析です。

この分析は、チェンジマネジメント戦略やチェンジマネジメント計画策定の基礎情報になります。

チェンジにより影響を受ける人たちは、様々な側面から変化を強いられます。例えば、コロナによって多くの人たちが余儀なくされた在宅勤務導入は、家で働くということだけではなく、次のような側面で「変化」を生み出しました。

  • 会社のメンバーとのチームワーク
  • コミュニケーションの仕方
  • 仕事の評価
  • プロセス変更
  • 役割の変更
  • 部下やチームマネジメントのやり方
  • 業務で使用するシステム
  • 休憩の取り方 など。

従業員がこれらの変化にうまく適応できないと、

  • 効率性・生産性が下がる
  • 社員のモチベーションが下がる
  • チーム間の信頼関係が薄れる
  • メンタルヘルス不調のスタッフが増える など

様々な問題を生み出します。

 

チェンジインパクト分析はチェンジマネジメントの要

変化を理解することは、起こりうるリスクに備えるために非常に重要です。

多くの場合、プロジェクト推進者やプロジェクトマネージャーは、プロジェクトで達成すべきことについては明確に説明することができますが、彼らが「プロジェクトによって誰が影響を受けるのか、何がどのように変わるのか」を明確に説明できるケースは残念ながら多くありません。

変化によって発生する影響を理解せずして、チェンジをスムーズに適応させることはできないため、チェンジマネジメントの手法では、初期の段階で、どのような側面(プロセス、システム、考え方、評価、役割など)で変化が発生するのか、誰がその変化の影響を受けるのか、どのぐらい変化が大きいのか、変化にいち早く適応するためにどのような対策・教育・サポートが必要なのかを洗い出し、変化を受ける人たちがいち早く適応できるよう対策を打ちます。 

チェンジマネジメント:チェンジインパクト分析

 

チェンジインパクト分析で行うこと

チェンジインパクト分析のポイントは主に以下の5つです。

  1. WHAT:何が変わるのか
  2. WHO:誰が変わらなければいけないのか
  3. HOW BIG:変化はどれほど大きいのか
  4. HOW READY:対象者は、どの程度変化の適応への準備ができているのか
  5. WHAT’S NEEDED:変化の適応を促進するためにどのような対策が必要なのか

例えば、10年間同じ自前の販売管理システムを使い続けていた部門が、新しいパッケージシステムを導入する場合、以下のようになることが想定されます。(注:実際にはより詳細なレベルで分析します)

WHATシステム、プロセス、役割、ルール、システムへの考え方など
WHO販売システムの入力を担当している営業事務員30名、そのシステムから出力されるレポートを使っている営業50名、レポートを自動で受信している顧客企業20社
HOW BIG10年間使っていたシステムと新しいパッケージシステムは機能がかなり違い大きなプロセス変更を余儀なくされる。特に営業事務員のほぼ90%はテクノロジーが苦手なベテラン社員。営業事務員の変化の影響は大きいことが予想される
HOW READY営業事務員は今までシステム変更を経験したことがなく、新しいことに対して非常に保守的。さらに「ミスが許されない」組織文化のため、失敗を恐れず新しいことをチャレンジする人が少ない。組織が変化への準備が整っていないと言える
WHAT’S NEEDEDトップ・管理職が「失敗を称賛する」文化を醸成する必要がある。評価指標の見直しが必要。新しいシステムやプロセスのトレーニングだけでなく、役割・働き方・考え方を変えるための教育プログラムが必要

 

阻む壁を取り除く

チェンジ(変化・変革)を推進する上で、最も重要なのは、現状とあるべき姿のギャップを把握し、阻む壁を取り除くことです。

プロジェクトの失敗の主な原因は人の「変化に対する抵抗」に起因しています。しかし、一言で抵抗と言っても

  • 業務内容・スキルに対する抵抗
  • ステータス(既得権益)・個人的な抵抗
  • 業務量増加による抵抗(定常業務+プロジェクト業務)

など、要因は様々です。

それらの抵抗に対応するためには、まず何が変わるのか、誰が変わらなければいけないのか、それによって生み出される抵抗は何かを把握することが第一歩です。それにより、事前に対策を打ち、抵抗による失敗のリスクを最小化することができるのです。 

チェンジマネジメント:チェンジインパクト分析の効果

  

ある企業の失敗例:全社標準システム導入

これまで事業部ごとに異なる業務プロセスを持ち、異なるシステムを使っていたある製造業の会社。数年前からのDX(デジタルトランスフォーメーション)の波を受け、経営トップから、会社全体で業務プロセスを標準化し、業務システムを統一する、という方針が打ち出され、最初にA事業部に全社標準プロセス・システムを導入することになりました。

その方針が打ち出される前、A事業部は、自分たち独自の要件に合致する業務システムを導入するため、1年かけて構想策定をしていました。そんなときに、全社共通システムの方針がトップから打ち出され、A事業部は、自分たちが想いをもって作り上げてきた構想をつぶされた怒りと、今まではA事業部の個別最適だけ考えていたのに、全社レベルの全体最適を優先することを強いられたことが受け入れられず、水面下で激しく抵抗します。

プロセス・システムの設計を行う場では、
「標準プロセスではA事業部の業務要件を満たさない」
「今のプロセスを変えるとなるとビジネスに多大な影響を与える」

と、現状のプロセスに固執。その結果、A事業部のプロセスは標準プロセスから大きく乖離し、A事業部向けにシステムを大幅にカスタマイズをすることに。必要な開発コストは当初予算の倍に跳ね上がりました。

また、A事業部の人たちは、無理矢理やらされていることに不満を感じ、
「業務が忙しい」
ということを理由に、システムの受入テストにほとんど関わりませんでした。

その結果、システム導入後、不具合によるシステム障害が多発。顧客に影響するレベルの大きな問題まで発生したのです。

障害対応のために、さらに多くの時間、工数、費用を費やし、プロジェクトは大失敗に終わりました。

チェンジインパクト分析を行っていたら、A事業部の「自分たちの構想」をつぶされた怒りの影響、個別最適から全社全体最適へ考え方をシフトすることの難しさを、プロジェクトの初期の段階でリスクとして洗い出し、対応することができたはずです。

ですが、このプロジェクトでは「経営トップが言っていることに下は従えばいい」というスタンスで、A事業部のひとたちの感情、変化への抵抗を軽視したため、このような失敗に終わってしまいました。

 

まとめ

チェンジインパクト分析は、チェンジにおける影響を可視化し、想定される問題が発生する前に対策を打つために行う重要なツールです。

もし、あなたが関わっているプロジェクトの責任者が、プロジェクトによって、誰が影響を受けるのか、何がどのように変わるのかを明確に説明できない、という状況だったら、一度チェンジインパクト分析を行ってみてはいかがでしょうか。