今、富士通がドラスティックな社内変革を進めています。昨年10月、全社的なデジタルトランスフォーメーション(DX)プロジェクト「Fujitsu Transformation」(フジトラ)を本格始動。1000億円以上投資し、システム、プロセス、制度、風土、体質の変革を行います。自社で大規模変革を成功させ、その変革成功モデルをサービスとして顧客に提供することを目指しているようです。

富士通の変革というと1990年代の成果主義導入の失敗。数十年経った今、再び自社の制度に抜本的なメスを入れる富士通の変革は成功するのか。

チェンジマネジメントコンサルタントの観点から、富士通改革の参考になる点と気になる点を解説します。

参考になる点

富士通のDXプロジェクトは、参考になる点が多いのですが、なかでも特筆すべき点を3つお伝えします。

トップのコミットメント

組織で変革を成功させるために、絶対に欠かせないのはトップのコミットメントです。日本の変革において、トップのコミットメントが十分でないケースが多いのが実情です。しかしながら富士通に関しては、時田社長の変革に対するコミットメントが非常に高い。

まずは、プロジェクト体制。富士通DXプロジェクトでは以下のように経営陣が責任をもってかじ取りを行う体制を組んでいます。


  • CDXO(最高デジタル変革責任者)を新たに設置し、時田社長自らが兼任。
  • CDXO、COO、CFO、CIOで構成するステアリングコミッティを経営上層部に設置。
  • 各部門の役員をDXオフィサーに任命。


トップがこのプロジェクトを最優先事項としてコミットしていることがうかがえる体制です。

さらに、時田社長自らが、本プロジェクトの重要性、方向性、トップの覚悟など変革活動に関する重要なメッセージを社内外で積極的に発信しています。

変革において、トップがプロジェクトにコミットし、

  • トップ自らが、なぜ変わらなければいけないのか、どうあるべきなのかを繰り返し伝える
  • トップが社員に対してプロジェクトにおけるプレゼンスを示す
  • 活動の重要性を、メッセージだけでなく体制・指標などの仕組みで伝える

のは、変革の成功に非常に効果的に働きます。

 

道筋を示す

さらに変革において必要なのは、なぜ変わらなければいけないのか、どうあるべきなのか、どのように変革を進めるのか、何が重要なのかを示すことです。

この改革にあたって、富士通は「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」という存在意義(パーパス)、つまり「どうあるべきなのか」を制定し、DXプロジェクトをそのパーパスを実現するための活動と位置付けました。

そして、「IT企業からDX企業へ」という覚えやすいキーメッセージで、テクノロジーを提供するIT企業からテクノロジーによって社会を持続可能な世界に変えるDX企業に変わるという進むべき道を示しています。

さらに、以下の例のように、課題を明確に提示し、なぜ変わらなければいけないのかを分かりやすく伝えています。


ITサービス市場
・国内IT人材の不足感
・国内IT業界に特有の構造
・お客様のDXへのさらなる貢献

ナレッジ・スキル
・スキル・知見の分散
・お客様個別仕様に対する属人化、固定化
・高度人材のリソース配置におけるアジリティ欠如

グループ内体制
・縦割り・サイロ化組織(ミニ富士通)
・組織間での昨日重複と人材の分散


加えて、プロジェクトステートメントで、何にフォーカスするのか、何が大切なのかを伝えられていることも参考になるポイントです。


DXプロジェクト・ステートメント(カルチャーの変革にフォーカス)

  • パーパスを胸に
  • オープンなコラボレーション
  • わたしらしい働き方で
  • 最高のエクスペリエンスを
  • データを武器に
  • ともかくやってみよう
  • 全員参加で
  • 未来をリ・デザイン
  • ファーストペンギンとして

このようなステートメントがあれば、変革活動において、複数の組織・チームにまたがって意思決定を行う際にも、指針となる重要項目を共有したうえで意思決定が行えるので、目的からずれた意思決定がなされる可能性が下がります。

例えば、施策を実行するか否かを議論する際に、「ともかくやってみよう」という指針があれば、多少リスクがあってもやってみようという意思決定になります。

また、「ファーストペンギンとして」という指針があれば、「失敗を避け何もしない社員」よりも「失敗を恐れずチャレンジする社員」をより評価する指標が重要視されるでしょう。

わかりやすく、なぜ変わらなければいけないのか、どうあるべきなのか、どのように変革を進めるのか、何が重要なのかを示すという点は、他の変革でも参考にしやすいポイントだと思います。

 

現場を巻き込み、声を反映させる

改革でもうひとつ欠かせないのが現場を巻き込み、声を反映させること。

富士通では、顧客・従業員の声を拾う仕組みVOICEプログラムを導入し、定期的に声を拾い、それを施策に反映させるということを実施しています。

  • 社員の声をプロジェクト計画に反映させることで、自分たちが作り上げているプロジェクトだという意識を芽生えさせ、自分事意識を育てる
  • 根拠なく計画を立てるのではなく、現場の定量・定性データとして分析し、その結果を施策に反映させる

という手法は、チェンジマネジメントでは必ず行う効果的な仕組みです。

 

気になる点

非常に参考になる点が多い富士通の改革ですが、いくつか気になる点、もう少し掘り下げて知りたいと思う点がありました。

戦略・環境にそぐわない施策:基幹システム(ERP)のグローバル統合

DX投資 1,000億円の目玉施策は、今国内外に複数ある基幹システムをグローバル統合です。

この施策はもう少し掘り下げて内容を知りたいと思いました。

本来、施策は戦略に従う必要があり、戦略は環境に沿う必要があります。富士通は「ビジネス環境の激しい変化に対応し、競争優位性を確立することを目指し、改革を進めています。

競争の激しい環境に必要なのは柔軟性です。環境の変化や個々のビジネスのニーズにすぐに対応できるシステム・プロセスが必要です。

プロセスの標準化・システムの標準化という施策は、通常効率化やシステムコストの低減を目指して行うもので、比較的安定した環境にあり、コストが競争優位性になるようなときに選択するもの。

富士通は、社員規模13万人(国内8万人・海外5万人)のグローバルな大企業です。その規模の会社が、ビジネス環境、要件が異なる複数の事業部、国・商習慣・制度が違うリージョンの基幹業務のプロセス・システムを統一すれば、アジリティ(俊敏性)が犠牲になります。プロセス標準化がビジネス柔軟性の足かせになるのです。

さらに、気になったのは、今回選択したアプローチ「グローバル・シングルERP(合流型)」は、「難易度:極大」だと認識したうえで進められるということ。

チェンジマネジメントを実施する上で意識しなければならないことのひとつが、社員が「改革は実現可能」だと信じられるようにすることです。実現が限りなく難しいと思うと人間はやる気がでません。そのため、チェンジマネジメントで計画を立てる際には、挑戦的なレベルでありながらも、実行できると信じられるレベルの難易度の課題を設定をします。そのため、「難易度:極大」の施策を実施する、さらにそれを社員に知らしめている点が気になりました。

 

富士通が残したいDNAは何か

今回の改革は、自己破壊といっても過言ではないほど抜本的な改革で、特に改革の中でも難易度が高いカルチャー変革を主軸にしています。

そのような改革において、富士通が残したいカルチャー・DNAは何なのかが気になりました。

多くの社員にとって会社はアイデンティティの一部です。

たとえ会社に忠誠心がない社員であっても、本人も気づかぬうちに、会社のカルチャーが自分の働き方、考え方の一部になっているはずです。

抜本的に文化や風土を変える場合、慎重にアプローチしないとその社員のアイデンティティを否定されたと受け取られる可能性があります。

さらに人間は、一貫性を大切にする生き物です。今まで大切にしていたもの、信じてきたものをゼロにして、全く新しい考え方を取り込むというのは非常に難しい。

そのようなリスクを最小化するため、カルチャー改革でチェンジマネジメントを実施するときには、会社が昔から大切にしているDNA・価値観などを、未来のビジョン・指針に織り込むということを行います。それにより、大切にしていたものを全否定することにはならず、一貫性を保つことができるからです。

例えばソニーの場合。設立から75年経った今でも、会社設立の目的として書かれている「自由闊達にして愉快なる理想工場」-「人のやらないことをやる」というチャレンジ精神のDNAを大切にしています。現在のソニーのPurpose(存在意義)である「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」は、創業時の「人のやらないことをやる」精神を引き継いでいます。

前ソニーCEOの平井氏は、ソニーの大改革を進められていたときに「私たちは創業者の一人である盛田(昭夫)さんが掲げた(ハードとソフトの融合を図る)ビジョンや考え方から大きな影響を受け、その志を日々の仕事の原動力にしている」と語っています。

創業ビジネスであるエレクトロニクス事業に大きなメスを入れる改革において、創業のときから脈々と続くビジョン・考え方を指針に改革を進め、その想いを社員に伝えていました。

富士通の場合、どのようなDNAを後世に残していきたいと思われているのか、どのように社内コミュニケションされているのか、非常に気になりました。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

始まったばかりの富士通DXプロジェクト、これからどのように富士通が変容するのか、大プロジェクトが成功するのか、非常に楽しみです。

参考