近年、チェンジマネジメントのフォーカスがプロジェクトレベルから組織レベルへとシフトしています。

従来のチェンジマネジメントは、システム導入など、個別のプロジェクトのチェンジをいかにスムーズに導入するかに主眼が置かれていました。

しかし、不確実性が高い昨今、絶え間なく起こるチェンジに組織としてどのように対処していくか、いかに変革能力(チェンジ・ケイパビリティ)を高め変化に強い筋肉質な組織になるかということが、主要ポイントになっています。

今回のトピックは、チェンジケイパビリティ向上に必須の枠組みであるチェンジポートフォリオマネジメント。欧米ではかなり前から多くの企業で導入されていますが、最近日本においても、この枠組みを必要とされる企業が増えているため、広まっている背景やベネフィット、導入する際のポイントについてご説明いたします。

チェンジポートフォリオマネジメントとは?

チェンジポートフォリオマネジメントは、組織内で推進されている複数のプロジェクト、プログラム、イニシアティブによるチェンジの影響をデータで可視化し、データに基づいて戦略的な意思決定を行うための枠組みです。

従来のチェンジマネジメントでは、プロジェクト単位で変化の影響を分析していました。しかし今、個別に影響分析しているだけでは、組織への変化へのインパクトが見えなくなっています。なぜならば、多くの企業において、同時に複数の活動が進行していて、その複数の活動が複雑に関連しているからです。

例えば、インボイス制度対応のプロジェクトと経理システムの刷新プロジェクトが別々に同時並行して進んでいる場合、各々のスケジュールは互いの活動スケジュールを考慮したうえで進める必要があります。また、例えばどちらのプロジェクトも経理部のA課長がリードする場合、A課長のリソースをどのように2つのプロジェクトに配分するのか、定常業務とのバランスをとるのかを考慮する必要があります。

チェンジポートフォリオマネジメントは、各活動のチェンジによる影響や個々の依存関係を明らかにし、戦略的に活動の優先順位付け・順序付けをする、チェンジによる影響を組織全体で俯瞰して見える化し、データに基づいた意思決定を促すことで、顧客や業績、従業員へのマイナス影響の回避や期待通りにチェンジを導入することを可能にします。

チェンジポートフォリオマネジメントが注目される背景

チェンジポートフォリオマネジメントが注目される背景にはいくつか理由があります。

変化は特別なことではなくなった

1990年代、チェンジマネジメントという概念が初めて広まったとき、チェンジを導入することは非日常的なイベントであり、始まりと終わりがある活動として捉えられていました。

しかし、いま多くの企業で絶え間なく変化することが求められています。チェンジを受け入れるという事自体が、日常業務の一環になっているのです。

チェンジの導入・受入を通常業務の一環として、どのように効率的に運用し、意思決定をしていくかが企業の課題となっています。

従業員の変革疲れが問題に

もうひとつの大きな課題が、従業員の変革疲れ。特に変化が激しい業界において、絶え間なく雨のように変化が降ってきて、それらに対処し続けなければならないという現実に従業員が疲れ果て、燃え尽きているという問題が発生しています。

このような状況を解消し、従業員に負荷がかかりすぎないように考慮すると同時に、従業員の変化への柔軟性を向上するということも多くの企業が取り組むべき課題としてハイライトされています。

アジャイルアプローチが主流に

先の予測が今ほど難しくなかった頃は、事前にしっかり計画を立てて、それを実行するウォータフォール型のアプローチが主流でした。

しかし今、特に変化が激しい業界において、計画よりも変化に対応することを重視し、まず試してみて、結果をレビューし、検証結果をもとにまた新たな一手を打つという、計画、実行、検証の早回しをするアジャイル型のアプローチが主流になっています。

アジャイルに変化することが求められている

状況は常に変わり続けているので、従来型の計画 vs 実績を対比させ意思決定するのでは間に合わない。そのときそのときの断面で、外部環境、目指す姿、施策の状況を捉え、判断することが必要です。それには、今の社内の活動のチェンジによる影響やリスク等、意思決定に必要な情報をデータで把握することができる飛行機のコックピットのようなものが欠かせません。

このような背景から、日常化したチェンジの導入・受入を、企業としてリスク少なく、無用なコストをかけず、効率的にチェンジを成功させるか、企業自身が、変化の波を走り続けられる筋肉質のランナーになれるかが、企業の必須のアジェンダとなっています。

変化に強い筋肉質の組織になる

チェンジポートフォリオマネジメントのベネフィット

チェンジポートフォリオマネジメントの導入には、主に以下のようなベネフィットがあります。

戦略的に活動の優先順位付け、順序付けを行うことができる

各活動がサイロ化し、横断的に可視化できていない状況では、プロジェクト間・イニシアティブ間で、リソースやスケジュールにコンフリクトが起こっても、どのようにそのコンフリクトを解消すればいいのか、どのように優先順位をつけるべきなのか、判断することができません。

チェンジポートフォリオの仕組みがあれば、データをもとにその判断を行うことができます。

従業員の変革疲れを回避できる

チェンジポートフォリオで、変革推進のキーパーソンや主要部署の負荷状況を把握できるようになるため、負荷の平準化を行い、業務過多を回避することができます。ひいては、体調不良や離職などで、キーとなる従業員を失うというリスクを低減することができるのです。

また従業員の立場からは、チェンジポートフォリオで、先々のどのようなチェンジが起こるのか、各活動がどのように戦略と紐づいているのかを把握することができるので、予め未来のチェンジに対して準備をすることができ、かつ各チェンジの活動の意義も明確になるため、よりチェンジに前向きに自分事意識を持って取り組むことができます。

異なるプロジェクト・イニシアティブ間のコミュニケーションが円滑になる

相互に依存関係がある複数のイニシアティブやプロジェクトが各々バラバラに進んでいると、ときにそれらの活動間でコンフリクトが起こることがあります。

例えば、経理システム刷新プロジェクトにおいて、経理チームが中心となって2024年4月切り替えを目指して導入を進めていたが、プロジェクトの途中で、経営企画チームによって推進されていた管理会計システム導入プロジェクトの要件定義・設計に、同じ経理メンバーが対応しなければいけなくなり、一旦進んでいたシステム開発を止めなければいけなくなった、本番稼働のタイミングを変更せざるを得なくなったなどが、コンフリクトの例です。

予め互いにコミュニケーションしていれば避けられることなのですが、実際の現場では、各々自分たちの活動にフォーカスし、相手の状況を把握していないために、このようなコミュニケーション不足が発生することがあります。

上記のプロジェクトの例で言うと、刷新プロジェクトの導入スケジュールの見直しにより、開発会社に支払うコストが増加する、システム導入による生産性の向上というリターンの刈り取りが遅くなるなどの実害につながります。

チェンジポートフォリオが共通言語になる

チェンジポートフォリオであらかじめ全社共通の枠組み(共通言語)を構築することにより、他の活動でどのようなチェンジが起こるのかを関係者が早い段階で把握でき、上記のような問題を回避することができます。

チェンジポートフォリオマネジメントを導入する上でのポイント

チェンジポートフォリオマネジメントを導入する上でいくつかのポイントがありますが、ここでは主な3つのポイントをご紹介します。

1.スポンサーの賛同を得る

チェンジポートフォリオマネジメントは、上位層の意思決定のための枠組みでありガバナンスです。そのため、意思決定者にとって有用な情報を提供することが必須要件になります。

意思決定層(多くは経営層)のニーズや要件を明らかにした上で、それらをベースにチェンジポートフォリオのレポートを作成し、チェンジポートフォリオが生み出す価値に賛同してもらうこと、そして、意思決定層のどなたかにスポンサー(支援者)になってもらい、ガバナンス導入を後押ししてもらうことがファーストステップになります。

ガバナンスが肝になるため、強力に支援してくれるスポンサーがいない状態で進めても、なかなかうまくいかないと思った方がいいでしょう。

2.データを提供するプロジェクト側の状況を考慮する

チェンジポートフォリオは、各プロジェクトやステークホルダーから定期的に提供されるデータをもとに構築します。

このデータ提供の運用を、データ提供側に負荷がかからないよう設計すること、またデータ提供側にとってもメリットがあるような枠組みにすることができなければ、やらされ感で動くことになり、結果、データの精度に影響がでる、データ提供のタイミングに遅れが出るなどの問題が起こり得ます。

スポンサーのニーズだけでなく、現場側の状況とのバランスをとって設計することが、仕組みを持続可能なものにするコツです。

3.データとビジネスパフォーマンスの相関関係を明らかにする

変革活動の影響とビジネスパフォーマンスの相関関係を明らかにする

チェンジマネジメントでは、チェンジインパクト(チェンジによって受ける影響)や、チェンジレディネス(チェンジへの準備状況)などのデータを用いることが多いですが、そのような情報に慣れていないステークホルダーには、それが何を意味するのか分かりづらい。

そのため、意思決定者やステークホルダーがデータの意味を解釈できるように、顧客満足度等のビジネスパフォーマンスデータとの相関まで踏まえて分析し、メッセージを伝えることが重要です。

チェンジポートフォリオマネジメントは、意思決定のツールです。意思決定する受け手が判断しやすい形で提供できるよう、枠組みを作り上げる必要があります。

まとめ

チェンジポートフォリオマネジメント導入により、戦略的な優先順位の設定、従業員の負荷軽減、ステークホルダー間のコミュニケーション改善を実現できます。変化の激しい今の市場で、企業が生き残るために必須のガバナンスフレームワークと言えるでしょう。

チェンジポートフォリオマネジメントに関する導入にご興味がある方は、ぜひ当協会までお問い合わせください。