会社合併、環境の変化に伴う大きな戦略の変更、大規模組織変更、デジタルトランスフォーメーション、働き方改革などの大きな組織変革には、企業文化の変革が伴います。

「変革を成功させるために、組織文化を変えなければいけない」という声はよく聞きますが、「言うは易く行うは難し」で、実際には一筋縄ではいきません。多くの変革は、企業文化が壁になり失敗しています。

そこで今回は、企業カルチャー変革をテーマに、改めて組織文化とは何か、なぜ組織文化を変えることは難しいのか、組織文化を変えるためにおさえるべきポイントについてお伝えします。

 

企業文化は戦略を食う

マネジメントの父、ピーター・ドラッカーは「企業文化は戦略を食う(Culture eats strategy for breakfast)」という言葉を残しています。企業文化は戦略に勝るほど重要だという意味です。

どんなに素晴らしい戦略があっても、それを実行する企業のカルチャーに問題があれば戦略は機能しない。逆に素晴らしい企業文化があれば、たとえ戦略が秀逸でなくとも、社員はゴールを達成することができるといえます。

実際、数々の調査において、文化の重要性は認識されています。


ベイン・アンド・カンパニーのグローバルサーベイによると、ビジネスリーダーは、ビジネスを成功させるために、企業文化は戦略と同等レベルで重要であると回答しています。また、その調査では企業文化がプロセス改革や意思決定において多大な影響を与えていることを指摘しています。

ハーバードビジネススクールの教授ジョン・コッターとジェームス・ヘスケットは、組織の文化と企業のパフォーマンスに有意な相関関係を明らかにしています。

ケンブリッジ大学ジャッジビジネススクールのシニアリサーチアソシエイト ハンプデン・ターナーは、文化は、社員の考え方や感情と企業の信条との同調を強化すると提言しています。


このように文化の重要性が認識されているにもかかわらず、多くの組織変革において、カルチャー改革の戦略・計画を練ることは見落とされがちです。

それはおそらく文化というものが、人間の無意識の領域に存在する目には見えないものであり、どのように変えるべきか明確な答えがなく、また施策の効果が把握しづらいからではないでしょうか。

文化を変えるためには、文化を理解を深めることが第一ステップになります。

組織文化とは何か?

そもそも組織文化とは何でしょうか?

組織文化とはグループ内で共有されている基本的な想定や価値観、信念のことを指します。文化は組織内のメンバーのやり方や考え方に対する共通の期待や規範を作り出し、グループ内に一体感を生みだします。

組織文化の定義としてよく使われる表現に「Culture is the way we do things around here(文化とは、組織における物事の進め方である)」というものがありますが、目に見える言動はあくまで文化の表層でしかありません。

エドガー・シャインのカルチャーモデル

MITスローン経営学大学院の教授で、組織開発・組織文化研究の先駆者 エドガー・シャインは、文化を以下の3つの層に分類しています。

エドガー・シャインのカルチャー(文化)モデル
シャインの文化の3つのレベル

第一層の人工物とは、オフィスビル、企業ロゴ、オフィスの内装、ドレスコードなど、あなたが初めて企業を訪れたときに目にするものです。挨拶の仕方、感情表現、顧客への接し方などもこれに含まれます。人工物は、目には見えますが、解釈することが難しいという特徴があります。例えば、たくさんのデスクが整然と並んだオフィスの内装を見ても、それが何を意味するのかを理解するのは難しいでしょう。文化を理解するためには、人工物より下の層を理解する必要があります。

文化の第一層は人工物(Artifacts)

第二層は、組織内で定義された価値観です。組織が企業活動を行う公式のルールで、戦略、規範、フィロソフィー、ミッションステートメントなどから把握することができます。ただし、ときに公式で謳われる価値観と目に見える言動が異なる場合があります。例えば、公には「顧客第一主義」と定義していても、社員の行動が伴っていないというのはありうることです。

第三層は、目には見えないが、組織の中で当たり前だと思われている暗黙の想定であり、組織の核にあたるものです。グループの中で根付いているルーチンワークやルールなどがそれにあたります。

なぜ企業文化を変えることは難しいのか?

シャインのモデルに表現されているように、我々の目に見える文化はあくまで氷山の一角であり、大部分は水面下に隠れています。認識できないレベルに存在するからこそ、文化を変えるのは難しい。

組織内のメンバーでさえも、自社のカルチャーを明確に説明することができず、多くの場合、無意識のうちに文化に沿って行動しています。

そのため、その水面下にある文化の軸を理解せぬまま、企業のロゴを変えたり、パーパスを新しく定義したり、バリューについて話し合うワークショップを実施するなど、目に見えるもののみにフォーカスすると、期待通りの結果がでません。

すなわち、文化を深いレベルまで分析しているか否かが、カルチャー改革の成功を左右すると言えます。

どのように組織文化を変えるのか?

ではここで文化を変えるための基本指針をお伝えします。

現状の文化を分析・理解する

文化は創業者の哲学、企業の歴史、取り巻く環境、上層部の優先順位など、様々な複雑な要素によって構成されています。その文化を分析し、理解することがはじめの一歩です。

世の中には様々な企業文化を分析するツールがあるため、参考情報として、そして文化を議論する最初のトリガーとして、それらを活用するのもよいでしょう。

組織の戦略と一致させる

企業の目的・目標を達成するためには、戦略と企業文化が一致している必要があります。

例えば、環境が安定的なときには、効率的に安価に製品を製造することが戦略だった企業が、コロナの影響により環境に合わせて俊敏に戦略を変えていかなければいけなくなった場合、企業のプライオリティは「効率」「低コスト」から「アジャイル」に変わり、それに伴い、考え方・やり方を変える必要がでてくるでしょう。

当たり前のことですが忘れがちなのは、今の文化を活かした戦略を立てる方が、文化を全く新しいものにするより簡単だということです。いくら環境がアジャイルを目指していても、今までと180度違うカルチャーを導入するということは現実的ではありません。

そのためにも先の項目でお伝えした通り、まずは自社のカルチャーを理解し、新しい環境にも活かせる強みを見つけ、それをベースに戦略を構築することが成功への近道になります。

リーダーがロールモデルになる

日本海軍大将 山本五十六が残した名言「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」の通り、何を変えるべきかを伝えるだけでは人は動けません。どのようにすべきかを「やってみせ」ないと、社員は日常業務のなかでどのようにすべきかわからず戸惑います。

そのため、社員に影響力がある上層部・リーダー層がまず日々の業務に新しい文化を取り入れて行動で示すことは非常に効果的です。

新しい文化を維持する仕組みを組み込む

カルチャー改革において最も難しいのは、新しい文化を定着させることです。企業のトップが号令をかけて、カルチャー改革のスローガンを打ち出し、価値観について話し合うワークショップを実施し、会社のロゴを刷新し、体制を変え、これから何か変わるのかという空気が一瞬流れたにもかかわらず、定着せず頓挫するということは、残念ながらよくあることです。

新しい文化を定着させるためにはそれを支える仕組みを構築することが欠かせません。

例えば、アジャイルな文化を醸成するのであれば、今まで中央集権型で行っていた意思決定の多くを現場に権限移譲する、意思決定の会議体を見直す、会議におけるルールを設定するなど、日常業務に落とし込みます。

例として、アマゾンでは「会議の冒頭5分を会議資料の「黙読」にあてる」というルールがあるそうです。黙読により、参加者全員が会議で話し合うべき議題の全体像を短時間で頭に入れることができ、自分が意思決定すべき箇所・投げかけるべき質問を整理した状態で議論がスタートできます。これはアマゾンの「効率性を重んじるカルチャー」を実装した仕組みです。

このような仕組みを導入することが新しいカルチャーを定着化します。

企業文化を変える際に気を付けるべきポイント

組織文化を変える活動を行うにあたって、気を付けるべきポイントを3つご紹介します。

文化を変えるには忍耐が必要

文化は一朝一夕で変えられるものではありません。人の深層心理に根付いているものを変えるには時間がかかります。さらに「これをすれば成功する」という絶対的な成功パターンはありません。アマゾンやグーグルでうまくいくことでも、別の企業でうまくいかないことは根底にあるカルチャーが違うのですから当たり前。本格導入の前に、試験的に特定のグループのみに導入するなど、検証を繰り返して変えていくことも必要になるでしょう。

サブカルチャーが存在する

また多くの場合、組織内にはサブカルチャー(組織内のある特定のグループに存在する、全体的なカルチャーとは別のカルチャー)が存在します。そしてときにこのサブカルチャーが全社的なカルチャー変革を阻害することがあります。

冒頭の三菱電機のケースを例にすると、三菱電機の全社的なカルチャーだけではなく、本社と事業部で別々のカルチャーが存在していました。おそらく工場ごとにも別のカルチャーが存在するでしょう。

そのため、サブカルチャーも含めて改革が必要な場合、サブカルチャーを理解し、全社的なカルチャーとサブカルチャーで何が違うのかを明確にすることが必要になります。

自分自身のバイアスを意識する

我々は誰しも無意識のうちにその企業文化にどっぷり漬かっているため、その文化の外側に自分の身を置き客観的に見るということは非常に難しいと言えます。そのため変革推進者は、自分自身も知らぬ間に、自分を取り巻く文化という色眼鏡で物事を見ている、バイアスがかかっているということを常に意識したうえで、施策を検討する必要があります。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

企業文化を変えることは簡単なことではありません。しかし社員の考え方・物事の進め方を変える必要がある変革において、カルチャー改革は避けて通れないものです。

文化を深いレベルまで分析し、強みを理解し、定着化までの計画を立てることが、成功への道筋になります。

日本チェンジマネジメント協会では、カルチャー変革を戦略的かつ包括的に行うため、チェンジマネジメントプロセス、ツール、ベストプラクティスを使って、企業カルチャー改革のご支援をしています。詳細はお気軽にお問い合わせください。