チェンジマネジメントでは、人の変化に対する心の変遷を意識してコミュニケーション計画を立てます。なぜなら、人は電気のスイッチのように簡単に気持ちを切り替えることはできないからです。「明日から業務が変わります」と今日急に言われて、新しい業務マニュアルを一式渡されても、明日から対応できないのです。
時間をかけて、変化を理解し、変化を受け入れる状況を作り出す必要があるのです。
そのため、チェンジマネジメントでは以下の4つのフェーズにわけて計画します。
- 気づきのフェーズ
- 理解のフェーズ
- 当事者意識のフェーズ
- 適応のフェーズ
気づきのフェーズ
気づきのフェーズは、変化に関して、最初に対象者にアナウンスをするフェーズです。
このとき、主に以下の3つのポイントを伝えます。
- なぜ今変わらなければいけないのか
- 変わることによりどのようなベネフィットがあるのか
- 変わらないとどのようなデメリットがあるのか
例えば、コロナによって定着した在宅ワークをきっかけに、オフィス面積を減らし、固定の席からフリーアドレス制に変更するということになった場合。
この段階では、なぜフリーアドレス制にするのか、変更後はどのようなオフィスになるのか、このまま固定の席を残していたらどのようなデメリットがあるのかを伝えます。
今まで固定の席で、同じ部署のメンバー隣り合わせで働くことに慣れていた社員にとっては、非常にショックな変化です。おそらく、新しいオフィスに対する心理的な抵抗が発生するでしょう。変わらなければいけないことに納得できず、会社への不満が生まれる可能性があります。
そんな社員に対して、納得してもらえるように、なぜ変らなければいけないのか、を伝えることは重要です。オフィス面積の削減で、どの程度コストが下がるのか、削減したコストをどのように活かすのか、フリーアドレス制で、他部署とのコミュニケーションが円滑になるなどのベネフィットはあるのか、などを丁寧に伝える必要があります。
理解のフェーズ
気づきの段階では、未来に関してまだ決まっていないことも多いと思いますが、この段階では徐々に新しい状態の概要が固まり始める頃だと思います。
この理解のフェーズでは、社員各人にとって、変化がどのような意味があるのかを伝えます。
それは、社員が必ず抱くであろう以下のような疑問に答えるコミュニケーションです。
- 私にどのような影響があるのか?
- 私の役割はどうなるのか?
- 業務にどのように影響するのか?
気づきの段階のコミュニケーションは、組織のトップに発信してもらうのが一番適切ですが、理解のフェーズでは、対象者の上司など、関係性がある人からメッセージを発信することが望ましいです。なぜならば、対象者の業務・役割などがどのように変わるかを伝える必要があるからです。
オフィスのフリーアドレス化を例にすると、各社員の働く場所がどのように変わるのか、担当業務に何か影響があるのか、共に仕事をしている、社内常駐の業務委託メンバーの管理はどう変わるのかなど、対象者が新しい状況を受け入れるために心の準備に必要な情報を提供します。
この段階で考慮すべきは、本能的に人は変化に対して抵抗する生き物であるということ。抵抗は、懸念や不安という形で現れます。「フリーアドレスになったら、仕事に集中できなくなるのではないか」「業務委託メンバーの管理はどうなるのか、手間が増えるのではないか」「他部署メンバーと同じ空間に座ることになると、部内限定の機密の話は気軽にできなくなるのでは」など、対象者の頭に様々な疑問・懸念が生まれます。このフェーズで、そのような問いに答えられないと、計画が甘いのではないか、現場の社員のことを考えていないのではないかと間違った理解を植え付けかねません。
この段階で、すべての問いには答えられないかもしれませんが、疑問・懸念を真摯に受け取り、情報の透明性を担保することが相手との信頼関係につながります。
当事者意識のフェーズ
このフェーズは、変化が起きる直前の段階で、社員・チームに具体的に変化を受け入れる心づもりと実際の準備をしてもらうフェーズです。
ここでは、
- 変化は具体的にどのように私の仕事に影響するのか?
- どのようなトレーニングが受けられるのか?
- 活動はスケジュール通りに進んでいるのか?
- 準備状況は万全なのか?
などの疑問に具体的に答えるコミュニケーションを行います。
オフィスのフリーアドレス化の場合、新しいシステムやツールのトレーニング、新しい勤怠ルール・チームの管理方法の説明会、オフィスの引っ越しの日程や段取りなどを伝えます。
また、活動の進捗状況を伝え、安心感を与えるとともに、新しい変化に対して心の準備をしてもらいます。
このフェーズでは、疑問・懸念に答えられるように、専用の問い合わせ先を設置する、ポータルサイトに「よくある質問集」を載せる、質疑応答の機会を設けるなどを行います。
適応のフェーズ
変化が導入され、変化を新しい日常として受け入れるフェーズです。このときに陥りがちな落とし穴は、変化を導入した時点で活動が完了したとみなし、推進リーダー・オーナーが、導入後現場で起きていることに気を留めなくなることです。
また、狙った効果(生産性向上など)がまだ出ていないのに、導入した時点で勝利宣言をしてしまうということもありがちな間違いです。これをすると、まだやることが残っているのに、関係者が「活動が終了した」と思い、活動が一気に停滞するという問題が発生します。
本当のゴールは、変化を導入して、生産性をあげる、社員の満足度を上げるなど当初設定した目標を達成することです。
変化を導入の直後は、社員・チームが慣れないことを強いられるので、生産性・効率性が落ち込みます。その生産性をいかに変化前の状態に戻し、さらにゴールだった生産性まで引き上げるか、というのがこのフェーズに取り組まなければいけないことです。
そのためには、現場の状況を把握し必要に応じて素早く是正措置を実施することが肝になります。アンケートやフォーカスグループインタビューを実施する、現場に行き声を拾う、雑談の場などで、人伝えに情報を集めるなど行います。そして、その情報を元に、サポート体制を強化する、追加で説明会を開く、プロセスの改善を行うなどを実施し、狙った効果を達成するまで追いかけるのが秘訣です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
人の変化に対する心の変遷を意識して、相手の立場に立ってコミュニケーションを計画することは、組織で何かを変えるときの成功の鍵です。
ぜひ試してみてください。