エル・ティー・エス(以下LTS)は、急速に進むDX(デジタルトランスフォーメーション)やグローバル競争の中で、クライアントの組織変革力強化を支援する必要性が一段と高まっていると感じ、様々な取り組みを進めています。
今回、日本チェンジマネジメント協会の柊が、ERPおよびEPMサービス推進の責任者を務める髙橋様にインタビュー。髙橋様は社内のマネジメント層向けにチェンジマネジメント研修を企画し、ご自身も受講されています。
チェンジマネジメントの学びをどのように活かし、クライアントの変革を支援していくのか──具体的な取り組みや今後の展望について伺いました。


株式会社 エル・ティー・エス
常務執行役員 / Enterprise Transformation 事業本部長

髙橋 矢(たかはし なおや)

SIer、コンサルティング会社2社を経てLTSに入社。ERP/EPM領域を中心に企画構想フェーズから運用・保守フェーズまでの一通りを経験。各フェーズにおけるベンダーサイド、ユーザーサイドで現場コンサルタントおよびプロジェクトマネージャーとして携わる。昨今は、顧客のEnterprise Transformationの実現に向けて、ITやプロセスの変革だけではなく、人・組織などのソフト面の変革に向けたアプローチも強化している。

外部環境変化とチェンジマネジメントご受講前の組織や事業の課題について

―― はじめに、チェンジマネジメントに関心をお持ちになった背景について、御社を取り巻く外部環境や組織の状況を教えていただけますか?(柊)

髙橋様:外部環境の変化という点では、PEST分析(政治・経済・社会・技術のマクロ環境分析)で示されるあらゆる領域において、これまでになく変化が激しさを増していると感じています。
我々自身はもちろん、お客様もこれまで以上に先の読めない時代に入ってきているのではないでしょうか。

なかでも、特に影響が大きいのは、AI(人工知能)をはじめとする急速な技術の進歩です。想像を超えるスピードで進化しており、新しいデジタルソリューションが次々に登場しています。
こうした技術をどう適用していくか。適用できる企業とできない企業で極めて大きな差が生まれつつあり、その差がビジネスにも大きな影響を与えていくと感じています。サービス提供側としても、この点には強い課題意識を持っています。

柊:この数年で、お客様の状況やニーズにどのような変化を感じられますか?

髙橋様:例えばFit to Standard(システムの標準機能に業務を合わせるアプローチ)のように、既存のサービスをしっかり活用しようという意識が高まっているお客様もいます。また、AIを積極的に取り入れたいというお客様も増えています。
技術に対する意識や向き合い方がこれまでとは明らかに変化しており、「自分たちも変わらなければ」という危機感を持つ企業が少しずつ増えてきていると感じています。

柊:危機感を持つお客様が増えているのは、変革を後押しする大きなきっかけになりそうですね。

チェンジマネジメントに対する期待について

変化への適応力とビジネスアジリティ

―― チェンジマネジメントというテーマに御社がフォーカスされた経緯について教えていただけますか?(柊)

髙橋様:先ほどもお話しした通り、外部環境の変化には、お客様も私たちも迅速に対応していく必要があります。弊社ではこの考え方を「ビジネスアジリティ(変化適応力)」と呼んでいます。
私たちはサービス提供の中で、お客様の現状業務を可視化し、課題を抽出したうえで、To-Be(理想の状態)像の策定し、その後の実行支援までをユーザー側に立って伴走するコンサルティングを行っています。

ただし、たとえ「現時点でのTo-Be」を提示しても、変化の激しい時代において、その後もお客様の状況は変わり続けます。そこで必要になるのが環境変化に柔軟かつ継続的に対応できる「変化への適応力」です。

柊:確かにSIer(システムインテグレーター)としてサービスを提供されていると、一度システムや業務を整備しても、数年後には別の変革が求められることは多いですよね。そうなると、単発の導入支援で終わらせず、継続して変化に対応できる仕組みや人材育成まで視野に入れる必要がある、ということですね。

システムと人の両面からの変革

髙橋様:まさにその通りです。お客様のビジネス構造やシステム構造、プロセスをどのように設計すれば外部環境の変化に柔軟に対応できるのか——例えばプロセスの一部を入れ替えたり追加できるような運用設計を意識しながら取り組んでいます。

これらの仕組みづくりは大切ですが、変化を実行し、持続させるのは最終的には「人」です。
組織や個人が変化を前向きに受け止め、慣れ、そして「自分たちで変わり続けなければ」という意識を持つことが、本質的に変化に強い企業をつくります。

ですから、私たちは基幹業務や経営管理といったプロジェクトの中にチェンジマネジメントを取り入れ、単発の成果ではなく、継続的な変化対応力を備えた企業づくりを支援したいと考えています。

柊:つまり、ビジネスアジリティを実現するためには、システムなどのハード面と、人の意識・行動などのソフト面の両方を変えていく必要があるということですね。

髙橋様:はい。これまでのように一度きりの変革支援だけでなく、その後も変化し続けられる企業づくりに貢献すること——それがチェンジマネジメントにフォーカスした大きな理由です。

定着に責任を持つベンダーとしての成長

―― 御社はもともとチェンジマネジメントを重視されていたと伺いましたが、その背景を教えてください。(柊)

髙橋様:はい。弊社の社名のLTSは、「Learning Technology Solutions」の頭文字から来ています。創業時は当時走りだったeラーニングで企業の変革(チェンジ)を支援するサービスが事業の中心でした。当時から「戦略を絵に描いた餅にしない」という考え方で、単に企画やシステムを作るだけでなく、戦略を落とし込んだ施策を現場にしっかり浸透・定着させることを非常に大切にしてきました。

実際、「定着」まで責任を持つベンダーは多くはないと感じており、私たちはそこに課題を感じ、自分たちがそのギャップを埋める存在になろうと成長してきた経緯があります。
SIerの現場でも「作って終わり」ではなく、「使われて初めて価値がある」という認識は共通だと思いますので、この視点は共感いただけるのではと思います。

変革デザインの難しさと組織成熟度の視点

―― チェンジマネジメント研修での学びを通じて、特に解決したいと考えていたテーマや課題は何だったのでしょうか?(柊)

髙橋様:やはり、変革をどう「デザイン」すればうまく進められるのか——ここが大きな課題だと感じています。組織や人といったソフト面に重きを置かず、無機質に「現状の姿はこう」「課題はこう」「あるべき姿はこう」と進めるケースが多いと思います。でも、そこに「お客様組織の変化に対する成熟度」という視点を加えると、例えば3年という時間軸で達成可能な範囲は大きく変わってくるんですよね。

実は成熟度に応じた適切な目標設定が必要なのに、そこを重視せずに「あるべき姿だからここを目指しましょう」といきなり高い目標を掲げてしまう。結果的に無理な計画を立てて走り出すことで、炎上プロジェクトが出てしまうケースは非常によくあります。

たとえるなら、かけるはしごの高さや角度が間違っているようなもの。100点満点の目標をいきなり狙うのではなく、まずは40点や50点の段階から始めて、学びながら進めていくべきなんです。

髙橋様:その結果、失敗したプロジェクトが組織全体の変革の足かせになることも多いです。次の変革の場面で「前回失敗したから…」というネガティブなイメージがついてしまうのは、実際かなりあります。
だからこそ、変革のデザインをするときは、組織の現状やそこにいる人の状態をしっかり見極めて、最適なチェンジの設計をしていくことが我々にも求められている大きな課題だと思っています。

研修の中で学んだフレームワークや組織診断などは、そうした課題に対するヒントが多く、ぜひ実務に活かしていきたいと考えています。

柊:山登りに例えると分かりやすいですね。まだ初心者なのにいきなりエベレストを目指すのではなく、まずは自分の経験や体力を測って、それに合った山を選んで登る——そんなイメージですね。

髙橋様:そうなんです。実際、他社がこうやっているからという理由で、危機感を持って無理にERP(基幹業務システム)導入やFit to Standardを進めてしまう企業はまだまだ多いと思います。

でもそれはあくまで「他社の話」であって、自社に本当に適しているかどうかは別問題です。企業の成熟度や状況によって答えは変わるので、そこをきちんと見極めてから提案すべきだと思っています。「他社がこうだからあなたの会社もこうですよね」ではなく、しっかり診断した上で「あなたの会社ならこうしたほうが効果的ですよ」とご提案できるようになりたいですね。

柊:チェンジマネジメントで診断やフレームワークがあることで、お客様に対して体系的にアプローチできるというのは大きな強みですよね。

変化を楽しむカルチャーづくりへの想い

柊:最初に髙橋様にお声がけいただいたときから、ずっと感じているのは、髙橋様のチェンジマネジメントに対する熱い想いや、変化を前向きに捉えていこうという強い気持ちです。今回もそのお気持ちに触れさせていただいて、改めて「変化を楽しむカルチャーをつくりたい」という願いがひしひしと伝わってきました。

髙橋様:正直に言うと、私はけっこうネガティブなところもあるんですよ(笑)。でも、そんな自分でも「どうせなら前向きにいこう」と思っています。例えば「踊らにゃ損損(せっかくの機会を楽しむ)」っていう言葉もありますよね。これからもいろんな変化は避けられないですし、私たちもお客様も一緒に、その変化を楽しみながら向き合っていくほうが、結果的に幸せだと思っています。

柊:現場でお客様と向き合ってらっしゃるからこそ出てくるリアルな言葉だなと感じます。どうしても変化に戸惑うお客様もいらっしゃいますよね。

髙橋様:そうですね、抵抗感はやはり大きいです。現状の仕事の進め方が変わることへの不安や恐怖もありますし、その中には「自分の仕事が奪われてしまうのでは?」という心配も含まれています。

そうした恐怖心からの抵抗は自然なことだと理解しています。ただ、それでも自分自身が変わり、成長し続けなければ、その恐怖はいつまでも消えない。だからこそ、お客様も含めて、一人ひとりが向き合い、チャレンジしていくことを楽しめるようになればいいなと思っています。

柊:本当にその通りですよね。せっかくのチャンスですし、どうせなら前向きに「踊らにゃ損損」の精神で楽しみながら進めていけたら素晴らしいと思います。

当協会の研修をお決めになられたご理由

―― 今回、当協会の研修をお選びいただいた理由をお聞かせいただけますか?(柊)

髙橋様:協会の方々とお話する中で、現場で実際にチェンジマネジメントに取り組んできた豊富な経験をお持ちだと分かったことが大きいです。現場感のある方々だと感じられたので、安心してお願いできると思いました。

また、弊社ではサービス開発にあたり、世界的に認められているCMI(Change Management Institute)のCMBOK™ (*1)(Change Management Body of Knowledge:チェンジマネジメント知識体系)を基準の一つになると考えていました。社内の担当者も、このグローバルスタンダードを参考にしながらサービス開発を進めようとしています。

御協会の研修プログラムもCMIの考え方をベースに構成されていると知り、「これは方向性として合っている」と思ったんです。そのため、御協会に研修をお願いすることを決めました。

柊:なるほど。御社では今後もCMIのCMBOK™を基準にサービス開発を進めていくうえでもチェンジマネジメントが重要ということですね。

研修での学び

―― 研修での学びについてお聞かせいただけますか?(柊)

髙橋様:そうですね、一番印象に残ったのは、「お別れが大事だよね」という話です。
これまで現状のやり方と新しいやり方を比べて抵抗感が出てしまうお客様と向き合うことが多かったのですが、それって「古いやり方としっかりお別れできていない」からなんだと気づきました。チェンジカーブ(変化の心理プロセスモデル)の入り口に立てずにコミュニケーションしていたんだなと。

だからこそ、意図的にプロジェクトの中で「お別れの儀式」のようなものを設けて、お客様に変化を受け入れる準備をしてもらうことが、チェンジマネジメントでは非常に大事なんだなと強く感じました。

個人差を踏まえたコミュニケーション設計の必要性

柊:御社のマネジメント層の方々に研修を受けていただきましたが、受講者の皆様にはどのような学びがあったのでしょうか?

髙橋様:多くのメンバーが「やっぱり人は一人ひとり違う」ということを改めて実感したとコメントしていました。

チェンジカーブでいうと、同じ時期でも変化を受け入れている人もいれば、まだ抵抗している人もいる。これまではコミュニケーション計画のフェーズに合わせて、一律のコミュニケーションをしてしまいがちでしたが、実際には人それぞれ違うので、状態に応じて段階を分けてコミュニケーションを設計する必要があると感じたようです。

スポンサーシップとチェンジエージェントの役割

髙橋様:また、スポンサーシップ(変革を推進する経営層などの支援者)の重要性も改めて認識しました。チェンジエージェント(変革推進者)を巻き込み、彼らのモチベーションを高める仕組み作りは以前から大事だと思っていましたが、十分にできていなかった部分でもありました。

今回の研修でフレームワークを手に入れて、これまでの経験のピースがしっかりつながった感覚です。研修で得たヒントを活かして、お客様と一緒にもっとしっかり取り組んでいきたいと思います。

プロジェクト初期段階でのチェンジマネジメント設計強化

柊:今後、現場でどんなスキルをさらに活かしていきたいですか?

髙橋様:繰り返しになってしまいますが一番は、チェンジマネジメントの考え方を使って、プロジェクトの初期のデザインをしっかりできるようになることですね。特に、「チェンジの特性」と「組織の変革力」のバランスを見極めて、お客様と丁寧に話し合いながら、プロジェクト体制を組成していければと思っています。その上で、後の定着化フェーズでこれまで以上の成果を出せるのではないかと期待しています。

社内カルチャー醸成の状況と取り組み

柊:御社内でのチェンジマネジメントも非常にうまく進められている印象を受けています。

髙橋様:ありがとうございます。弊社の戦略やブランディング担当者が「アジリティ(変化適応力)が大事」というメッセージをずっと発信し続けていて、それが社内に徐々に浸透してきています。

もちろんお客様にも同じことを求めるので、まずは自分たちがそれを実践している姿を示すことが大切だと思っています。そうすることで、お客様も「自分たちもやってみよう」と感じてくれるのではないかと期待しています。

柊:メッセージがトップからミドル層にまで一貫して広がっているんですね。

髙橋様:そうですね。しかしそうは言っても、自社内のシステムやプロセスなどの大きな見直しの際には他社と同様に相当な抵抗に合うと思うので、そこは挑戦だなと感じています。

でも、お客様に変革力を提供する会社として、自分たちもしっかり実践して乗り越えなければならないと思っています。そうした実体験があるからこそ、お客様への説得力も増すし、信頼してもらえると思うんです。

柊:自分たちで実践し、経験を積むことが説得力の源泉になるということですね。

髙橋様:はい、その通りです。

柊:素晴らしいショーケースですね。

今後のご展望について

―― チェンジマネジメント領域における今後のご展望や当協会への期待をお聞かせいただけますか?(柊)

髙橋様:研修で学んだことを活かして、上流工程からしっかりチェンジマネジメントを取り入れていきたいと考えています。各プロジェクトの中でも、研修で得たヒントやピースを組み合わせて、お客様の変革を確実に成功させるサービス強化につなげていきたいですね。

それから、社内のチェンジにも取り組む必要があると感じています。今回のチェンジマネジメントの要素を社内でしっかり活用し、その中で見えてきた課題や改善点をサービスにもフィードバックできればと思っています。

日本チェンジマネジメント協会には、チェンジマネジメントの認知が徐々に広がってきている中で、もっと実践的な手法や重要性が伝わるように、事例発信や研修、講演などの活動を通じて、さらに広めてほしいと期待しています。

Fit to Standardのような標準化の流れの中で、多くのベンダーがチェンジマネジメントの重要性を語るようになってきました。必要性は認識されつつありますが、実際にどう進めていけばよいかという具体的な部分はまだこれからだと思うので、そこを協会の取り組みで支えてもらえると助かります。

私たちもできる限り協力させていただきたいので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

柊:ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いいたします。

*1. CMBOK™は Change Management Institute(CMI)の商標です。