変革が、社員の考え方や仕事のやり方、役割などの変更を伴うケースにおいて(システム導入などを含む)チェンジマネジメントを行う場合、人事評価や業務KPIなどの評価基準・指標の見直しを行います。

指標は、「各自の業務レベルで何を目指すのか」「社員にどのように変わってほしいのか」を教えてくれるチェンジマネジメントに欠かせないガイドでありツールです。

チェンジマネジメントでは欠かせないキーなのです。

ですが、この指標の設定、毒にも薬にもなりえます。

今回は、2000年代のマイクロソフトの失敗事例と、リーマンブラザーズ(Shearson Lehman Hutton)のジャック・リブキンが行った1980年代後半の成功事例を基に、指標を設定するコツ、考慮すべきポイントをお伝えします。

 

評価指標失敗例:マイクロソフト

マイクロソフトは、スティーブ・バルマーCEOの時代に、人事評価制度「スタックランキング」を導入しました。この制度はマネージャーに、一定の割合の社員を5段階でランク付けさせるという仕組みで、社内でランキング結果が公開されました。

ランキング下位の従業員を「上に上がろう」という気持ちにさせる、上位の従業員に今のランクを維持するためにさらに努力してもらうことを狙った施策です。

しかし、従業員は自分が最低ランクにならないために、お互いに足を引っ張るようになったのです。従業員同士がアイデアを共有し協力することをはばみ、お互いの仕事を邪魔するようになり、不健全な競争が生まれました。

製品の機能の責任者たちが、堂々と他の社員の活動をと妨害しました。私が学んだ重要なことのひとつは、表向きは礼儀正しくし、裏では同僚が必要な情報を隠蔽し、同僚が自分よりランキングが上位にならないようにすることでした

元マイクロソフトの開発者

マイクロソフトは2013年にこの制度を廃止しました。

この頃を知るマイクロソフトのマネージャーが口をそろえて「悪しきシステムだった」という、有名な失敗事例です。

  

評価指標成功例:リーマンブラザーズ エクイティリサーチ部

1987年、ジャック・リブキンは、リーマンブラザーズのエクイティリサーチ部の立て直しを任されました。

当初この部署は多くの問題を抱えていました。

分析レポート出すための仕組み・プロセスが整備されておらず、顧客が必要とするタイミングで分析レポートがだせない、同僚同士で協力し合うカルチャーはなく、従業員のモチベーションは低い。顧客に価値を提供できないため、社内ではコストセンター扱い。世界的に有名な金融専門誌「Institutional Investor誌」でのランキングは最低レベルの15位。

リブキンは、このチームを5年以内にInstitutional Investor誌のトップ5にするというビジョンを掲げ、改革を行います。

その彼の重点施策のひとつが指標の設定。

彼は、アナリストたちのパフォーマンス指標を管理するシステムを導入。アナリストの予測と実際の株価の比較、電話をかけた回数、取引手数料、書いたレポートの数、クライアントに訪問した回数など、リブキンは必要だと思う指標をすべてシステムで管理し、部署内の社員全員がこの数字を閲覧できるようにしました。

リブキンは、社員が「自分の達成率」を語れない状況では、仕事を楽しむことも成功させることもできないと考えていました。そのため、彼は、社員自身に自分たちのパフォーマンスの期待値を設定させ、自分が目標に対して今どこにいるのかが指標でわかる仕組みを導入したのです。

その結果、社員の士気があがり、社員同士のコラボレーションが生まれ、パフォーマンスは劇的に向上。そして、2年後の1989年に「Institutional Investor誌」で、4位を獲得しました。

 

マイクロソフトとリブキンの施策の違い

マイクロソフトとリブキンの施策の違いはどこにあったのか。

マイクロソフトは、従業員のランキングという1つの指標しか公開しませんでした。

しかも、ランキングは複数の異なる指標を使って算出されていたため、従業員は、どのようにランクが算出されたのか、なぜ自分がそのランクなのか、そのランクを見て何を改善すればいいのか、知る由もありませんでした。またひとつの指標しかないので、最下位の人を不快な気持ちさせるだけでした。

一方、リブキンはランキングを出すということはしませんでした。複数の異なる指標を、手を加えることなくそのまま公開したのです。そこになんの秘密もありませんでした。

これには大きく2つの利点があります。

ひとつは、すべての従業員が、各指標において、さまざまなランクに位置することになるということ。その人の特性によって、ある指標では下位になるが、ある指標ではトップのほうになり、また別の指標では真ん中になるというような結果になるので、この指標によって、従業員が「自分は最低ランク」だと感じることはありません。

もうひとつの利点は、これにより社員間のコラボレーションが起こるということです。指標ごとに、どこに誰がいるかがわかるので、特定の指標をより良くしたいなら、その指標のトップにいる人に教えを請えばいいということがわかります。誰にノウハウを聞けばいいかがわかるので、お互いにより良くするために学びあうカルチャーが生まれたのです。

 

良い指標を設定するためには

良い指標を設定するためにはいくつかのポイントがあります。

組織のゴールに沿っていること

指標は、従業員の行動を期待する方向に向かわせるために使うツールです。そのため、期待する行動変容を促せるような指標を選ぶ必要があります。

つまり、従業員の行動が、組織のゴールに結びつくものでなければいけないのです。

例えば、「顧客のニーズにタイムリーに対応すること」を組織の目標に掲げている会社において、物流部門が物流費の削減だけにフォーカスしていた場合、組織の目標と部門内の指標が一致しないことになります。そのため、顧客の要求への対応を測る指標が追加で必要になるでしょう。

指標を設定する上で重要なのは、目指すべきは従業員が組織のゴールを達成するために、従業員がとるべき行動は何で、その行動を促すための指標は何なのかを見極めることです。

つまり指標を通じて、「何を達成しなければいけないのか」「それを達成するための指標は何なのか」「どのように行動を変えなくてはいけないのか」を従業員自身が理解できるように指標を設計する必要があるということです。

 

全体を見て最適化を図る機能・役割を設けること

KPI設定でよくある問題は、あるグループの指標にのみフォーカスしていると、組織内の他のグループに悪影響を与えるケースです。例えば、食品メーカーのサプライチェーン担当が賞味期限切れによる廃棄ロスを少なくするKPIに注力し、生産数を抑えた結果、営業担当の販売機会を減らしてしまうという例です。

これらの複数の異なる指標の最適な水準は、組織の戦略によって異なるため、複数グループをまたいで判断できる機能または役割が不可欠です。

 

指標の妥当性を確認するポイント

評価指標の良し悪しを確認するのに一番手っ取り早いのは、行動を変える必要がある社員に直接質問することです。

「この指標をみて、あなたはどのようなアクションをとりますか」と。

彼らが思いついたアクションが、組織の戦略的なゴールにつながるものであれば、その指標はよい指標と言えるでしょう。

もし、従業員がその指標を見て、何をしたらいいのかわからないようであれば、もう一度考え直した方がいいかもしれません。

 

まとめ

指標は従業員に行動変容を促す重要なツールです。

そのため、指標が組織の戦略的なゴールに合致していること、その指標をみることで、従業員が期待する行動を行うことが鍵になります。

変革のゴールに合わせて、指標を設定してみてはいかがでしょうか。

 

参考