総務省チェンジマネジメント研修開催レポート

2025年10月、総務省行政管理局の行政運営イノベーションの担当者など12名の方々に、2回にわたって当協会のチェンジマネジメント研修をご受講いただきました。受講の目的は、全国の行政組織に対し時代に合わせた変革を促す立場として、より効果的な働きかけや推進方法のヒントを得るため。

実際の研修ではどのようなことを学び、そして研修を通じて得られたものはどのような内容だったのか、参加者の声と合わせて、研修の様子をお伝えします。

行政を取り巻く環境が激しく変化する中、行政運営の変革を推進

総務省行政管理局は、行政機関に関連する法律の運用や、行政改革に取り組む部署です。今回の研修を企画したのは、その中で行政運営イノベーションを担う副管理官の山内亮輔さんや主査の瀧本由祐さんなどの職員。行政を取り巻く環境が激しく変化する中、複雑・高度化する行政課題に対応するために、行政運営の変革を推進することが主な役割です。

山内さんらが今回の研修を企画した背景には、全国の省庁や自治体に対して変革を促す立場として、より納得感をもって前向きな行動を促すための効果的なアプローチを学びたいという思いがありました。

「行政は、伝統があり組織が大きい分、変化するというのは簡単なことではありません。ただ、時代の流れが急速に変わる中で、「変わらない」ことは大きなリスクになります。特に、急激な人口減少の中、仕事の仕方はどうしても変えていかなければいけない」(山内さん)

山内さんらは、全国の行政組織に変革を促す際に、制度改革や財政支援、人材マッチングといった『ハード面』の施策だけでは、真の変化を生み出すことは難しいと感じていました。

「最終的には『人』が変わらなければ組織は変わりません。だからこそ、どうすれば人が納得し、前向きに変化を受け入れられるのか。そのためのアプローチを考えることが重要であると考えてきました。まずは、変革を推進する私たち自身がより効果的な手法を学ぶために、今回のチェンジマネジメント研修を企画しました」(山内さん)

行政運営イノベーション担当 副管理官   山内亮輔さん

実践的なケースを用いたグループ討議を通じチェンジマネジメントの理論と実践を学ぶ

今回の研修では、1回目が「個人のチェンジ」、2回目が「組織のチェンジ」をテーマに、講義に加え、個⼈ワークやグループワークなどが行われました。

1回目の「個人のチェンジ」では、個々人がどのように予期せぬ変化を受け入れるのか、心理学や代表的なモデルを用いて、「変化に対する人の反応」を整理しました。続いて、自発的に前に進んでもらうためのアプローチや、前向きに変化を受け入れてもらうために必要となる考え方を学び、最後に、変化に対するコミットメント(意欲・受容度)を高めるための施策について、実例を交えて参加者同士で検討しました。

2回目は、「組織のチェンジ」です。架空のケースを用いて、組織変革を成功させるためのプロセスのうち代表的なものを体系的に学びました。変革を成功させるために、どのように効果的に推進するのか、ステークホルダー(関係者)をどのように巻き込むか、施策の設計や実行方法、リスク対策などを整理し、関係者のエンゲージメントを高めるためのコミュニケーション方法などもグループで討議しました。

実務として日々組織の変化・変革に向き合っている参加者たちは、一つひとつのトピックに真剣に向き合い、グループワークでも積極的な意見交換が行われました。

研修で改めて気づいたこと、得られた学びとは~参加者たちの声を紹介

山内さん、瀧本さんは、企画者としての手応えを感じると同時に、自らも多くの学びを得たと話します。

山内さんが「企画して良かった」と感じたのは、チーム内で議論を行う上で必要な共通言語を獲得できたことです。

共通の言葉や認識がないと、議論がかみ合わず、それぞれ異なるイメージを抱いてしまうことがありますが、チェンジマネジメントを体系的に学んだことで、チーム内で、変革推進のプロセスや施策をより明確に共有できるようになったといいます。

また、山内さんは研修を通じて「人を変える前にまず自分が変わること」や「人によって異なるアプローチを取ることの重要性」に改めて気づいたと話します。

変革を促す立場にあると、つい「他者をどう変えるか」という視点に偏りがちですが、まずは自分たちのスタンスを変えることが、変化を生み出す第一歩だと実感したそうです。

一方、瀧本さんにとって特に印象的だったのは、ステークホルダー分析の重要性を改めて認識できたことでした。

ステークホルダーを表面的に捉えるのではなく、変化に直面した相手が何を不安に感じているのか、心理的な変化のプロセスのどの段階にいるのかを分析し、より深く相手を理解した上で対応を考えることの大切さに気づいたといいます。

また、架空の事例を用いたケーススタディを通して、変化を促すための手順や視点を学びました。その学びから、困難な変革に対しても「自分たちで進められる」という手ごたえを感じ、体系的なチェンジマネジメントプロセスを学んだことが、今後の大きな励みになったと話しています。

行政運営イノベーション担当 主査     瀧本由祐さん

さらに、研修に参加した職員からも、さまざまな声が寄せられました。

経験則・自己流で行ってきたことを体系的・多角的に学ぶことができた研修でした。

同じ変革でも、受け手(ステークホルダー)によって、どこでスタック(停滞)するのかに違いがあるため、その違いを踏まえた丁寧な対応が必要であることに気が付きました。

地方業務の改善に関する施策を自分の部署で直近行っており、「ここが足りなかった」、「あれはしっかりとできていた」といった気づきがありました。

これまで、「改善」「改良」「改革」というと、これまで培ったものの上に「機能追加・付加」するというイメージを持っていました。しかしながら、現状を変えるには、これまでの習慣や考え方、ときにはカルチャーをも手放す必要があり、それを経てこそやっと新たなものを得られるのだと学びました。

2回とも、テーマが非常にわかりやすかったです。資料も要点がまとめられており、後から見返すのにも便利でした。また、チームで取り組む課題も多く、長時間ながらもあっという間でした。

山内さんは、「研修で得たことを今後、具体的な変革プロジェクトの中で実践し、成果を生み出すこと、前向きな変化を起こすことが目標です。行政は『自分たちが変えました』と声高に言う文化ではありませんが、仕事の進め方や組織の雰囲気が良い方向に変わっていくことを示していくことが、考え方を広め根付かせる上で大切だと思います。私たちも、私たち自身の組織の変化を生み出すための入り口に立っていると考えています」と話します。

「公務員というと『制度を守る人』という印象を持たれがちですが、本来、公務の本旨は『社会の課題を解決すること』にあります。そうした意味でも、チェンジマネジメントは、変革に携わる人だけでなく、行政に関わるすべての公務員にとって――必須とまでは言えないかもしれませんが――非常に重要な領域だと感じています。特殊なスキルというよりも、行政に携わる誰もが共通して意識しておくべき考え方ではないかと思います。」