2021年1月~6月期において上場企業が公表した合併・買収(M&A)の件数は447件と前年同期を26件上回り、3年連続で増加しました。上期としては2008年(468件)以来13年ぶりの高水準で、2019年に初めて過去最多の4,000件を突破した4,088件を上回るペースです。

一方、各種調査によると70%-90%のM&Aが失敗に終わっています。失敗の主な理由は、企業の「社員の変化への抵抗」への関心が薄かったこと。社員の心理的な抵抗は、会社のパフォーマンスに大きく影響します。特に、会社合併のようなドラスティックな変革においては、その影響が顕著に表れます。

このようなマイナス影響を最小限に抑えるには、体系的に人の抵抗に対処するチェンジマネジメントは欠かせません。

今回は、組織合併・組織統合でよくある間違いとその対処法についてお伝えします。

 

組織統合の壁は「人の課題」

調査によると、組織合併の主な失敗の理由として次のようなものが挙げられます。

  • 企業文化が合わなかった
  • 合併の戦略的な理由が弱く、社員が納得できるものではなかった
  • 社内コミュニケーションがうまくいかなかった
  • 組織横断型の計画・実施がうまくいかなかった
企業合併・統合の失敗の主な理由は企業文化の違い

このような課題の根本原因のひとつがマネジメント層の「過剰な自信」。

もちろん、難しい変革を実現するためにはリーダーの「自信」は必須です。しかし、それが過剰になると、十分に熟考せず対策を講じる、目の前の課題やリスクを軽視するなどにつながり、失敗を引き起こします。

このようなことを避けるため、チェンジマネジメントの手法を使うときには、定性・定量データを使って、やるべきことを体系的・多面的に計画・管理、実行します。

人の感情という目には見えづらいものに対処するためには、チェンジマネジメントの包括的なアプローチは非常に有用です。

組織合併・組織統合におけるよくある間違い

そのチェンジマネジメントのアプローチをベースに組織統合でありがちな3つの間違いと対策をご紹介します。

ネガティブな情報を隠す

特にダウンサイジングなどを伴う組織統合でよくみられるのは、リストラなどのネガティブな情報などを隠す、または十分に社員に説明せぬまま実施するというケースです。

心情的に人の抵抗と向き合うのは極力避けたいと思うもの。水面下で行えば、その問題に直面する必要はなくなるという想いも働くのでしょう。

しかし、社員はネガティブな事象に敏感です。必ず気づきます。そしてそれはネガティブな噂になって社内に流れます。ネガティブな噂ほどパワフルなものはありません。会社への不信感、現状の不満、将来への不安につながり、著しく社員のモチベーションを下げます。

情報を隠すことは社員のモチベーションを下げる

大きな改革を行う場合、最も重要なのは、社員の組織に対する信頼です。信頼できない組織に人はついていこうとしません。情報を隠すことは、今まで積み上げてきたその大切な信頼を一気に壊す力があります。

そのためネガティブな情報ほど、実施しなければいけない理由、影響範囲、ネガティブな影響を受ける社員にどのようなサポートをするのか、いつまでに完了するのかなど、透明性をもってコミュニケーションすることが重要です。

統合の理解が十分でない段階で部署を統合する

組織統合において、ありがちなことの2つ目は、社員が「統合が自分にとってどういう意味があるのか」を十分に理解していない段階で部署を統合するということです。

多くのケースにおいて、人事、総務、経理等の管理部門系の部署は、統合されることになります。その際、社員にとってどういう意味があるのか、統合後どのようなことを期待されているのか、ということを十分に従業員に説明せぬまま、部署が統合されるケースが見受けられます。

大抵の場合、合併における部署統合はダウンサイジングにつながると社員はイメージし、自分のポジションがどうなるのか不安に感じます。不安を抱えているのにも関わらず、今後についての説明を十分に行わないまま、企業文化の違う2つグループが一緒になると衝突が起こります。

説明が不十分だとチーム間で衝突が発生する

社員にとっては、相手のグループは自分の平穏を脅かす存在のように感じるのです。このような心理的状況は、チームワークを著しく阻害します。

このようなことを避けるために、部署統合する前にきちんと統合の意味、統合後どのようなことを社員に期待するのかを伝えることが必要です。

組織間連携の責任者を設定しない

組織統合における大きな課題は、複数の部門・部署が足並みを揃えて、目標達成を目指すことです。

通常、各部門・部署ごとに変革のタスク・課題が設定され、皆それに向かって活動を行います。その際に、忘れがちなのは横串しでその活動を管理し、必要に応じて活動の優先順位を見直し、組織が目指すゴールを達成するための調整を行う役割を設定することです。

組織間の横連携は変革成功に必須

この役割が設定されていないと、皆、自分のタスクやKPIを優先して活動するため、組織全体でみると適切に優先順位づけがなされず、結果的に組織のゴールを達成できないという事が起こります。

また、特に短い期間で目標を達成しなければいけない場合、変革のタスクを統合的にコントロールする機能がないと、現場の社員が、様々な変革テーマを並行して進めていかなければならず、業務負担が大きくなりすぎ、変革疲れを起こしてしまう、ということになりかねません。

そのため、変革活動を横断的に管理する役割・責任者を設定して進めることは、組織統合の成功に欠かせません。

組織合併・組織統合におけるチェンジマネジメント

上記のような問題を避け、合併・統合を成功に導くためには、弊協会では以下のチェンジマネジメントの5つの要件を満たす必要があると考えています。

チェンジマネジメントにおける重要な要件

弊協会は、以下の4つのエリアへのアプローチを通じて、組織変革プロジェクトが上記の5つの要件を満たし、変革のゴールを達成できるよう支援します。

チェンジマネジメントの4つのエリア

組織のレディネス

  • 組織の変革へのレディネス(準備状況)や組織文化、合併によるビジネスや社員への影響を調査し、その結果をコミュニケーションやステークホルダーエンゲージメント計画に反映させ、新しい行動を推進する

ステークホルダー&リーダーシップエンゲージメント

  • リーダーの変革へのコミットメントを高める、社員同士の衝突を未然に防ぎ、ワンチームとして連帯感を醸成し、エンゲージメントを高めるための対策を策定し、変革を推進する

コミュニケーション

  • 抵抗を未然に防ぐ、最小限に抑えるため、あらかじめ必要となるコミュニケーションを策定、実施
  • 説得力のあるコミュニケーションを通じて、リーダー、社員、その他関係者のエンゲージメントを高める

抵抗マネジメント

  • 想定される抵抗を事前に洗い出し、回避策・軽減策を立てる
  • 抵抗によるリスクや課題を管理する

まとめ

いかがでしたでしょうか?

組織統合を成功させるためには、

  • 情報の透明性を担保し社員との信頼関係を築く、
  • 社員の不安を払拭したうえで部署統合する
  • 組織横断的に活動を管理する役割・責任者を立てる

ということが欠かせません。

ご参考になれば幸いです。

参考

  • 日本企業のM&Aが過去最多 2021年上半期, M&Aマガジン(2021年08月20日)
  • Godfred Koi-Akrofi, Mergers and Acquisitions failure rates and perspectives on why they fail, International Journal of Innovation and Applied Studies (July 2016)