システムを導入する、新しいプロセスに変更する、ルールを変える、組織の体制を変える、オフィスを移転するなど、組織で何かを変革するとき、変化の影響を受ける人たちへのコミュニケーションを事前に計画されていますか?
チェンジマネジメントにおいて、コミュニケーションは成功を左右する重要なカギです。そのため事前に計画を立てます。
今回は、チェンジマネジメントにおけるコミュニケーション計画とは何か、コミュニケーションを計画がなぜ重要なのか、コミュニケーションの壁と鉄則、コミュニケーションを計画する際に考慮すべき点についてお伝えします。
コミュニケーション計画(Communication Plan)とは
チェンジマネジメントにおけるコミュニケーション計画とは、チェンジ(変革・変化)のステークホルダーに対してどのようにコミュニケーションをするのかをまとめたものです。ここで言うステークホルダーとは、チェンジの影響を受ける社員やチェンジに対して影響力がある経営層など、チェンジに関わる人たちのことを指します。
チェンジマネジメントは、組織を「現状」から「目指す状態」へと移行させ、期待するベネフィットを達成するための手法です。そのためには、ステークホルダーが変革の意義を理解し、変革を自分事として捉え、目指すビジョンにコミットしてもらう必要があります。ステークホルダーにそのような状態になってもらうために、どのようなコミュニケーションチャネルを使って、どのタイミングで、どの程度の頻度で、どのようなメッセージを伝達すべきかを計画するのがコミュニケーション計画です。
なぜコミュニケーション計画が必要なのか
変革を成功させるために絶対に必要なことがあります。
それは、変革の影響を受ける人たちが、変化を受け入れ、新しいやり方を定着させることです。
関係者とのコミュニケーションをおざなりにすると、チェンジの導入中に以下のような声が聞こえてくるようになります。
- そんなこと聞いていない
- 何をすればいいかよくわからない
- 勝手に決められても困る
- 今更そんなこと言われても困る
- 私には関係ない
- 業務が忙しいからそんなことしていられない
彼らが、変革は自分には関係ないと他人事のように捉え受け身で対応する、変革の意義を理解せず変革に抵抗する、変革における自分の役割を理解せずやるべきことをしないなどの状態が起こると、変革は失敗する可能性が非常に高くなります。
これらの問題の多くはコミュニケーションでしか解決できないものです。そして、このような問題は付け焼刃的にその場その場で対応できるほど簡単な問題ではありません。間違ったコミュニケーションを行うと、火に油を注ぐ可能性もあります。そのため、チェンジマネジメントではコミュニケーションを計画することが重要だと捉えています。
コミュニケーションの壁を理解する
効果的なコミュニケーション設計をするための最初のステップは、コミュニケーションの壁を理解することです。
コミュニケーションの壁を理解するモデルとして、広く参照されているのは、シャノン-ウィーバー(1949)のTransmission Model(伝達モデル)です。
このモデルは、情報の発信者と受信者の間にはノイズがあり、そのノイズにより「発信者が発信した情報」と「受信者が受け取る情報」は異なることを表しています。
現代の解釈では、オンライン会議でネットワークの調子が悪く音が途切れたというような物理的なものから、聞き手の集中力の欠落、聞き手の考え方や知識、経験、想定などによるバイアスなど様々なものがノイズとして捉えられています。例えば、発信者が専門用語を使った場合、その専門用語を知らない受け手は、発信された情報を理解することができない。この場合、専門用語をノイズとみなします。
このモデルは、シンプルながら「伝えたことが伝わったことではない」というコミュニケーションの基本を教えてくれます。
コミュニケーションをさらに複雑にするのは認知バイアス
更に厄介な壁は、認知バイアスです。
人間の脳が処理できる情報量には限りがあります。私たちの目の前にある情報は脳が処理するには大きすぎる。そのため、脳は処理できなくなるのを防ぐため、情報にフィルタリングしてから処理を行います。このフィルタリングによって発生する認知のエラーを認知バイアスと呼びます。先入観や偏見、無意識の思い込みにより非合理的な判断をしてしまうという本質的な人間の偏りです。
認知バイアスは数多ありますが、コミュニケーションにおいて大きく影響するバイアスは以下のようなものがあります。
確証バイアス:自分の考えや仮説に沿う情報のみを集め、仮説に反するような情報は無視する傾向
現状維持バイアス:何かを変化させることで現状がより良くなる可能性があるとしても、損失の可能性を考慮して現状を保持しようとする傾向
利用可能性バイアス(アベイラビリティバイアス):記憶に残る情報や手に入りやすい情報が最も重要な情報だとみなす傾向
このようなバイアスがあるため、多くのケースにおいて人は合理的な判断ができず、伝えた情報が意図した通りには伝わらないということが発生します。
コミュニケーションの鉄則
このようなコミュニケーションの壁を乗り越えるにはどうするべきか。
その問いにシンプルに答えてくれる鉄則は、
適切なメッセージを、適切な人に、適切なタイミングで(Right message, right person, right time)伝えるです。
先に述べたように、人間は自分が聞こうと思うメッセージしか聞こえない。そのため、相手に伝わるコミュニケーションを行うためには、まず相手を理解したうえで、相手が知りたいと思っていることを、相手が知りたいタイミングで伝えることが必要です。
例えば、例えば業務のやり方を抜本的に変えなくてはいけないA部署の現場の社員へのコミュニケーションと、実務的な影響は受けないB部署のトップへのコミュニケーションは、伝えるメッセージ、タイミング、伝え方が異なります。
業務プロセスを変える際、20年間同じ業務をしていたベテラン社員Aさんと、1年前に入社した新卒のBさんでは、変化に対する柔軟性が異なるため、コミュニケーションを変える必要があるでしょう。
相手の立場や変化によって受ける影響の度合い、現状のやり方に関わってきた年月の長さなどにより、伝えるべきこと、伝えるべきタイミング、伝え方を変える必要があるとチェンジマネジメントでは考えます。
そのため、チェンジマネジメントでは、ステークホルダー分析という手法でまず相手を理解したうえで、コミュニケーション計画を立てます。
コミュニケーションを計画する際に考慮すべき点
変革のコミュニケーションを計画するにあたって、押さえるべきポイントを3つお伝えします。
個々人にとって変革がどのような影響があるのかを考慮する
どんな人であれ、変化が自分にどのような意味があるのか知りたいと思うものです。
「この変革が自分にどのような影響を与えるのか」「変革によって私の役割やポジションがどのように変わるのか」と誰しも疑問に感じます。
そのため、チェンジマネジメントを行うときには、聞き手の興味や懸念に関連したコミュニケーションを発信するよう心がけます。それにより相手は、変革が自分にとってどのような意味があるのかを理解でき、変革活動に積極的になれるのです。
相手が情報の山に埋もれないようにする
受ける情報が多すぎると人は処理しきれず、やる気を失います。
そのため、十把一絡げで情報発信するのではなく、聞き手をセグメント分けし、セグメントごとに発信する情報を変え、相手が必要とする情報を提供するのです。
人によって、変革の背景、ゴールなどに関する理解度が違う、変革によって受ける影響度が違うなどを意識する必要があるでしょう。
一番気を付けるべきは、変革が彼らにとってどういうメリットがあるのかということを伝えることです。
積極的にフィードバックを受け入れる
変革を成功させるには、一方方向で情報発信するのでは不十分、双方向コミュニケーションが不可欠です。
つまり、相手からフィードバックを受ける仕組みを準備し、相手のものの見方や懸念について理解することが必要です。さらにフィードバックを受けて終わりではなく、素早くそのフィードバックに反応し、その意見をもとに行動を起こすことが肝になります。
フィードバックに対しての回答は、それに対してどのような対応をしたか、またはしなかったのか、なぜそのような対応を行ったのか、もしくは対処しなかったのかを伝えます。
双方向コミュニケーションを通じて相手との信頼関係を築くことで、変革へのエンゲージメントを高めることができます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
コミュニケーションは非常に複雑な要素で構成されていて、簡単にうまくいくものではありません。そのため組織の中で何かを変えるプロジェクトを推進するときに、あらかじめコミュニケーション計画を立てるのです。
効果的なコミュニケーションを行い、関係者のコミットメントを高めるためには、まず相手を理解し、相手の視点に立って、相手が受け取りやすいタイミングで、受け取りやすいメッセージを発信することが大切です。
また、効果的なコミュニケーション計画のためには、以下のポイントをおさえることが有用です。
- 個々人にとって変革がどのような影響があるのかを考慮する
- 相手が情報の山に埋もれないようにする
- 積極的にフィードバックを受け入れる
ご参考になれば幸いです。
参考
- Richard Smith, David King, Ranjit Sidhu, Dan Skelsey (2014) The Effective Change Manager’s Handbook, Kogan Page