システム導入・業務プロセス改革、人事制度改革、組織風土改革、デジタルトランスフォーメーションなどのチェンジマネジメントを伴う変革において、プロジェクト成功に不可欠なのは、プロジェクトを支援してくれる上層部の存在です。
プロジェクトオーナーやステコミ（ステアリングコミッティ）などと呼ばれる上位レベルの支援者をチェンジマネジメントでは、スポンサーと呼びます。プロジェクトに関わるヒト・モノ・カネの決定権を持つ人です。
Prosci などチェンジマネジメントの調査を行っている会社によると、スポンサーの存在は、組織変革プロジェクトの成功を左右する最も重要な要素であると示しています。
ただ、名ばかりのスポンサーでは効果がありません。積極的に前面に立ち、組織内でリーダーシップを発揮してもらえなければうまくはいきません。しかし、言うは易し行うは難しで、多くの場合、多忙なマネジメント層にプロジェクトへのエンゲージメントを高めてもらうことは簡単ではない。
「忙しいんだ。プロジェクトに時間を割く余裕はない。プロジェクトマネージャーに一任するからうまくやってくれ」「とにかく期日までにシステムを導入すればいい」なんてことを言われかねません。
しかしハードルが高いからといって上層部の巻き込みを怠ると、プロジェクトは大きな失敗のリスクを抱えることになります。
なぜスポンサーが変革の成功の鍵なのか、どのようにプロジェクトに積極的に関与してもらうのかをお伝えします。
なぜスポンサーに積極的に関与してもらうことが必要なのか？
スポンサーがリーダーシップを発揮してくれることは、プロジェクトに様々なベネフィットをもたらします。
従業員への影響力
上層部は組織内のあらゆる層に広く知られていています。それゆえ組織への影響力が大きい。加えて、必要な人材のプロジェクトへのアサインや、プロジェクト活動による業務負荷軽減のための人員の補充、効率化のために必要なシステム・ツールやコンサルタントなどの外部リソースの調達など、ヒト・モノ・カネへの決裁権を持っています。そのため、マネジメント層のサポートは、従業員の抵抗を和らげる、社内でプロジェクトの認知を高める、プロジェクト生産性を上げるなど様々な効果をもたらします。
会社の方向性との一致
上層部であるスポンサーがプロジェクトに深く参画することにより、会社の方向性・戦略とプロジェクトのゴール・結果がずれることを回避することができます。
他の上層部の支援
変革は社内の複数の組織に影響を及ぼします。そのため、影響を受ける各組織の長に変革のビジョンを理解、支持してもらい、支援を受ける必要があります。スポンサーが変革の代表として、積極的に関連組織の長と調整し足並み揃えをしてくれることは、プロジェクトへの抵抗リスクを大幅に軽減することができます。
このようにスポンサーが積極的にプロジェクトに参画することは、プロジェクトで起こりがちな問題を回避し、プロジェクトの成功率を上げるのです。
スポンサー役の前提条件
スポンサーの効果的なリーダーシップは変革の成功を左右します。しかし、組織上の役割からスポンサーが決まることも多く、場合によっては、スポンサーが変革を積極的に支持していないのにもかかわらず、その役割を担うことがあります。そうなると、スポンサーのプロジェクトに対する影響は限定的、または最悪の場合、マイナス影響を及ぼしかねません。
スポンサーがプロジェクトにマッチしているかを見極めるためにはいくつかポイントがあります。
目的がスポンサーの関心と一致しているか？
彼らのニーズ・関心とプロジェクトの目的・ビジョンが一致しているかは、スポンサー役を果たしてもらうために重要なポイントです。
スポンサーがプロジェクトの目的に対して関心がないと、プロジェクトに対する熱意が上がらず、それは社員にも伝わりマイナスの影響となるため、彼らの関心・興味を意識してスポンサー選びをする必要があります。
どうしても公式なスポンサーを選ぶことができないのであれば、プロジェクトの目的・ビジョンと、その人の関心・ニーズが重なる部分が作れないか、または、サブという形でも、他に積極的に関与してくれる支援者にサポートしてもらえないかなど、検討する必要があります。
積極的にプロジェクトにコミットしてくれるか？
スポンサーがプロジェクトに対して前向きな意思がなければ、スポンサー役は成り立ちません。スポンサー役を依頼をする場合、積極的に関わってもらえるかの意思確認をすることが必要です。そして、コミットへの障壁がありそうであれば、最初の段階でそれが何なのかを聴き、障壁を取り除く対策を打つことが大切です。
プロジェクトに関わる時間はあるか？
スポンサーが、一定の時間をプロジェクトに割けることは必須要件です。もし時間がなくてプロジェクトにほぼ関われないのであれば、他の上層部のサポートを依頼するなどの対応が必要でしょう。
これらの条件はスポンサー役が適任かを測る指標になります。すなわち、スポンサーがこの条件に合うかがプロジェクトの成功の鍵を握ります。
スポンサーにリーダーシップを発揮してもらうには？
どんなにスポンサーにやる気があっても、スポンサーがやるべきことが明確でなければ、効果的に動いてもらうことはできません。そのため、次のようなことをあらかじめ計画し実施します。
スポンサーの役割を明確に伝える
変革においてスポンサーがリーダーシップを発揮してくれることは、従業員の意欲の向上、変革への抵抗の軽減、プロジェクトの問題解決などにつながり、変革の難易度を下げます。
そのようにスポンサーに活躍してもらうためには、まずスポンサーの役割と期待、スポンサーのリーダーシップによる効果をスポンサーに丁寧に説明する必要があります。費用面や人員面でのサポートだけでなく、スポンサー自身がプロジェクトに一定の時間を割いて、変革の方針を提示する、組織のあるべき姿を決定するなどを期待しているかことを、できるだけ具体的に伝えます。
特にスポンサーの役割の中で大切なのに見逃されがちなのは、変革に関する一貫性のあるメッセージを社員に言葉と行動で示すこと。
従業員はスポンサーがどう振る舞うのか見ています。スポンサーのメッセージと行動が一致しないと、社員は変革に対して疑問を抱き始めます。「この活動は会社にとって本当に大切なことなのか」と。
そのため、スポンサーには、ロールモデルとして変革で実現すべきことを言葉や行動で示してもらえるよう伝えると効果的でしょう。
スポンサーが実行しやすいように段取りをする
スポンサーのアクションは、実行しやすいように設計します。例えば、役員会議でプロジェクトの説明をしてもらう場合、聞かれそうな質問への回答集を用意し、回答に困らないようにお膳立てをするのです。
スポンサーは多忙です。プロジェクトのためだけに時間を割けないということを意識し、最小の時間で最大の効果が発揮できるように工夫が必要です。
スポンサーが目に見える形でサポートすることの重要性を伝える
スポンサーの存在は、従業員のやる気や変革への抵抗に大きく影響します。
プロジェクトで、スポンサーの姿が見えないと、従業員は「スポンサーはプロジェクトを重要視していない」とみなし、プロジェクトの優先度を下げるでしょう。
最初の段階で、スポンサーの存在がプロジェクトの成功を左右することを伝え、理解してもらうことが重要です。プロジェクトの予算をとるときにその必要性をROI（費用対効果）などを使って論理的に説明するのと同じく、スポンサーにプロジェクトに費やしてもらう時間による効果をわかりやすく説明することが大切です。
まとめ
多忙な上層部にプロジェクトに積極的に関わってもらうことは、簡単ではありません。
しかしプロジェクトに適切なスポンサーがいることは、従業員の抵抗を和らげる、社内でプロジェクトの認知を高める、プロジェクト生産性を上げるなどの効果があるだけでなく、プロジェクトと組織の方向性を一致させる、他の役員の協力を得ることができるなど、様々なポジティブな影響をもたらします。
スポンサーに積極的に参画してもらうためには、スポンサーの役割を理解してもらうこと、スポンサーとしてのアクションを実行しやすいものにすること、スポンサー関与が低いとどのような弊害が発生するかを伝えることが不可欠です。
成功の鍵は早い段階でスポンサーを巻き込むこと。そして、スポンサーがプロジェクトにかける時間を最低限におさえつつ、効果を最大化するアクションプランをプロジェクトで準備すること。
変革プロジェクトを進める上で参考になれば幸いです。