「人事制度を見直したのに、現場がまったく変わらない」
「制度を切り替えたが、逆に混乱が増えた」
「人事部としてはやり切ったはず。でも成果が出ない……」
評価制度、等級制度、ジョブ型雇用、報酬体系……
どんな制度であれ、それを導入する目的はただひとつ、「社員の行動や組織の在り方をより良いものに変えること」です。
しかし、実際の現場ではこうした人事制度改革で導入した「制度」が定着しないケースが多く発生しています。
その本当の理由は何か?
そして、制度改革を「絵に描いた餅」で終わらせないために、何をすべきか?
本記事では、制度改革に取り組みで陥りがちな「見落とし」と、変化を定着させる「チェンジマネジメント計画」の実践アプローチについて解説します。
なぜ制度を作っても、組織は変わらないのか?
制度改革が思ったような成果につながらない背景には、しばしば「人と組織が変わるためのプロセス設計」が十分に考えられていないケースが少なくありません。
たとえば次のようなケースに、心当たりはないでしょうか?
- 新しい評価制度を導入したが、評価のしかたが管理職に浸透せず、結局前と同じ運用に戻った
- 等級制度を刷新したが、社員が新しい基準を理解せず、モチベーションが下がってしまった
- ジョブ型雇用に移行したが、マネジメントの仕方が変わらず、「名前だけジョブ型」になっている
これらは必ずしも制度そのものが悪いわけではなく、制度を現場に浸透させ、社員が「行動として変われるようにする」ための支援が十分でなかったことが大きな要因と考えられます。
つまり必要なのは、制度設計そのものに加えて、それを現場に「根づかせる」ためのチェンジマネジメント計画なのです。
制度改革は「導入」より「定着」が9割
人事制度改革は、あたかも新商品を市場に投入するようなものです。設計・発表まではスタートラインに過ぎません。
本当に大切なのは、社員一人ひとりがその制度を理解し、受け入れ、日常の行動として使いこなす状態をつくること。言い換えれば、制度を起点にした行動変容をどう設計・支援するか、です。
制度改革を成功に導く「4つのチェンジステップ」
制度改革に携わる中で実感しているのは、標準的なチェンジマネジメントの考え方をベースにしながらも、日本の組織文化や現場の特性を踏まえると、次の4つのステップで丁寧に支援していくことが、変化の定着に効果的だという点です。
【気づき】「なぜ今、変わらなければならないのか」を自分ごと化する
課題の例:
- 社員が制度変更に対して受け身
- マネジャーが「なぜ変える必要があるのか分からない」と腹落ちしていない
打ち手:
- 現場が日常で直面する課題(例:評価が曖昧、在宅勤務で仕事ぶりが見えない)を題材に、変わらなければいけない理由を説明する
- 論理的な説明だけでなく、ビジョンや、大義、価値など感情に触れるメッセージを加える
【理解】「制度が変わることで、自分に何が起きるのか」を理解してもらう
課題の例:
- 制度の全体像は説明されたが、社員個人がどう変わればいいかが見えない
打ち手:
- 社員一人ひとりの「働き方がどう変わるのか」「どう評価されるのか」を丁寧に示す
- 現場の「具体的なシナリオ」を使う(例:「営業職Aさんの場合、ジョブ型でこう変わる」)
- 抽象的なスローガンより、変化後の「一週間の過ごし方」「上司との面談内容」などを可視化
【実践】実際に動いてもらう「小さな成功体験」をつくる
課題の例:
- 制度導入で社内に混乱と反発が広がる
- マネジャーが旧来のマネジメントを続けてしまい、新制度と齟齬が出る
打ち手:
- 部分導入(パイロット導入)を実施し、小さな単位で試してもらう
- 管理職へのトレーニングは「講義」ではなく「現場に即したケーススタディ」を中心に
- ミスや混乱は前提とし「失敗しても大丈夫」という空気づくりが重要。心理的安全性が変化の前提
【定着】日常に根づかせ、組織文化の一部にする
課題の例:
- 制度は導入したが形骸化し、元のやり方に戻ってしまう
打ち手:
- 導入から3〜6ヶ月後、1年後のタイミングで継続的に「現場の声」を拾う
- 制度がうまく活用されている部署を社内で「見える化」し、成功事例を広げる
- 評価制度も定着フェーズに合わせて柔軟にチューニング。制度ありきでなく、「現場が使えるものに」変化させる意識が重要
制度改革を成果につなげる企業が実践していること
制度改革に成功している企業は、特別な理論を使っているわけではありません。
彼らがやっていることは、「変化を起こすプロセスを、制度と同じレベルで設計・実行している」ということです。
制度はあくまで「型」に過ぎません。大切なのは、その型が「使われる」「機能する」ための設計を怠らないこと。
たとえばある企業では、制度導入の1年前から評価基準を明文化する文化づくりをスタート。制度運用を始めた後も、毎月1回の制度運用ミーティングをマネジャー向けに実施し、現場とのずれを逐次調整しています。制度はシンプルでも、「変化のプロセス設計」が成功の決め手になっているのです。
制度改革は「制度設計+変化設計」で初めて成果になる
制度改革がうまくいかない背景には、「人と組織が変化するためのプロセス」が十分に設計されていないことが大きく影響しています。
制度は導入した瞬間がピークではなく、そこから「育てる」必要がある生き物のようなもの。
だからこそ、制度の裏側にある「チェンジマネジメント計画」を設計し、導入前・導入後・定着フェーズまで、一貫して「人の変化」に寄り添う設計が求められます。
制度改革の手ごたえを、確かなものにするために
人事制度改革は、制度そのものを整えることだけでは完結しません。
新しい制度が現場で使われ、行動が変わり、組織に前向きな動きが生まれてこそ、本来の目的に近づいていきます。
ただ、どれほど丁寧に設計された制度でも、現場がその背景や意図を理解できず、運用にギャップが生まれることは少なくありません。
それが積み重なると、「制度は変わったけど、何も変わらなかった」という状況につながってしまいます。
こうしたギャップを埋めるのが、チェンジマネジメントの視点です。
「制度をどう機能させるか」「どう現場で使ってもらうか」
制度とあわせてその“受け止め方”や“定着の仕組み”まで設計していくことで、制度改革は実感を伴った変化へとつながります。
制度はあくまで変化を促す「器」であり、それだけでは動きません。
現場との対話を重ね、納得や行動につなげていくことで、はじめて制度は「生きた仕組み」として組織に根づいていきます。
制度改革を「導入して終わり」にしないために──
現場で活用しやすいステップや設計の視点をまとめた
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