

事業内容:医療機器・医薬品の製造販売
従業員数:5,633名(テルモグループ 30,689名:2025年3月末現在)
「医療を通じて社会に貢献する」を企業理念に掲げ、国内外で事業を展開している、大手医療機器メーカーのテルモ株式会社。100年以上の歴史を誇りながらも、時代の変化や医療現場のニーズに対応し、成長を続けています。
「チェンジリーダーズ」は組織の変革を実践したリーダーの方からお話を伺い、企業のチェンジマネジメント実行のためのヒントを探る企画です。
今回は、ソニーからテルモ株式会社に転身し、CFOならびにCIOを務める経営役員の萩本仁氏に伺ったインタビュー内容をもとに、2回にわたって萩本氏が携わった組織変革の取り組みについてお伝えします。
後編の本稿は、国内のファイナンス関連部門の組織再編で行った取り組み、そして数々のプロジェクトを率いてきた萩本氏が感じる、リーダーとして組織変革に必要なポイントについて、お話を伺いました。

テルモ株式会社
経営役員 CFO兼CIO
1996年、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)入社。東京本社・米国・欧州にて、経営管理、組織変革プログラムの立案・推進、新規ネットワーク事業の立ち上げ、情報システム分野の業務に従事。ソニー・インタラクティブエンタテインメントではゲーム事業CFO兼コーポレートITシステム担当役員を務め、米国グループ本社では事業横断のDX戦略および欧米のIT業務を担当。
2022年にテルモ株式会社入社。2024年より経営役員CFO、2025年からCIOを兼任。
6つあったファイナンス関連部門を2つに再編。
業務を熟知している担当者に相談しながら理想の姿を描いていった
― 萩本様が御社で携わった組織変革として、グローバルビジネスサービスの新設(GBS・前編参照)のほかにもう一つ、国内での取り組みについて教えていただけますか。
萩本様:国内においては、2025年7月にファイナンス関連部門の組織改編を行いました。これまで、経理、財務、税務、IR、FP&A(Financial Planning & Analysis:財務計画・分析)、サステナビリティ開示と6つの業務を担当する部署がありました。この6つを、その業務内容や目的に応じた2つの部署に再編しました。
1つは、経理・税務・サステナビリティ開示などを担当する経理部、そしてもう1つが、IR・FP&A・財務を担当する経営管理部です。
―今回の組織変更を考えた背景としては、どのような目的があったのでしょうか。
萩本様:組織の再編によって目指したのは、それぞれの部署の役割を明確にすることです。
一つ目の経理部は、関係する法律や規制に則って、知識や専門的な考え方をベースに、正しくしっかりと対応していくことが求められます。加えて、精緻に業務を進める部分と、適切な工数を見極めるバランスも必要です。どちらかというとこちらの部署は、専門知識を持つプロフェッショナルとして、スペシャリティに特化した集団、というイメージです。

そしてもう一つの経営管理部は、幅広く事業全体を見て、ファイナンスの立場から経営の方向性の指南役という役割を担います。
例えばIRは、機関投資家の皆さんに向けての発信を行う部門ですが、市場との対話がますます重要になる中で、機関投資家からの質問に答えたり、会社として何を目指しているかをしっかりと説明のできる体制であることが重要です。そのため、資本政策を担当する財務部門と一緒になり、連携を強化することで、会社全体の財務面をしっかりと把握することが可能になります。
先々の見通しを精査するFP&Aも予実の管理やKPI管理といった内部の管理に関しても外部視点を取り入れるという側面もあります。このように経営管理部に一元化し、経営全体を支えます。
もちろん、業務の効率化という側面もあります。昨今はどこも人手不足が避けられない環境になっています。当社においても、例えば海外から経理人材を要望されて人を出し、今度は本社側で人数が足りなくなる、といった状況もありました。
効率化も図りながら各々の部署の役割を明確にし、特徴や強みを生かせるようにする、というのが今回の組織変更で目指したところです。
―先ほど、グローバルビジネスサービス(GBS)の新設について、萩本様が入社以前から話が挙がって議論されていたものの、いろいろな障壁がありなかなか前に進まなかったとお伺いしました。こちらの国内の組織再編も、もともと構想があったものなのでしょうか。
萩本様:国内のファイナンス部門の再編成については、さきほどお伝えしたグローバルビジネスサービスの新設とは異なり、私自身がテルモに入社して感じた課題感をもとに、「こんな風に変えていきたい」と考えたことをベースにして進めたものです。
―そうすると、こちらのプロジェクトに関しては、具体的にどのようなことから取り組みを始めたのでしょうか。
萩本様:外から来た私の頭の中で描いた形だけで進めてしまうと、実業務にフィットしない、現実感のないものになってしまう懸念があります。そのため、当時の経理部長で副CFOを務めていた方にいろいろな相談をし、「経理部門の体制、業務はどうあるべきか。再編するとしたら、いつどのようなタイミングで着手するのがよいか」と何度も議論をして理想の形を描きました。
業務の細かな内容や会社の仕組みを熟知している方からアドバイスを受けることができて、非常に助けられたと感じています。

実際にスタートして気が付いた、想定外の受け止め方。
心情に配慮しながら慎重にプロジェクトを進行
―実際に組織再編に着手してわかった課題や、進めるにあたって大変だったことは、何かありましたか。
萩本様:GBSと同じく、国内の組織再編に関しても、やはり「人々の納得をいかに得ながら進めるか」という部分が一番大変でした。
今回の組織再編は、特に業務内容が変わるわけではなく、別々だった部署を統合し、組織単体で見ると規模が大きくなるというものです。再編前は「部」だった組織は、新組織の中のでは「課」という位置づけになります。そのため、私としては「みんなにとっても特に問題はないだろう」と当初は考えていました。しかし実際にスタートしてみると、「部が課になる」ということに対してマイナスと捉える方もいて、心情的な部分にもっと慎重に配慮する必要があるな、と感じました。

そのため、人事も含めて相談し、メッセージの内容やそのメッセージを出すタイミングなどを細かく検討しながら進めていきました。
今後は、それぞれの担当業務がグループ全体でより連携を強化していくことが必要になってきます。組織再編によって部署の数は少なくなりましたが、活躍の幅はむしろ広がるはずです。今回の再編を前向きに捉え、各自の強みを生かして海外へのリーチを深めていってほしいと思います。
―組織変革を進める際は、それぞれの企業が掲げる理念や根付いているカルチャーは非常に重要なファクターだと思います。御社のケースでは、理念やカルチャーが組織変革にどのように影響したと感じていますか。
萩本様:当社は「医療を通じて社会に貢献する」という企業理念を掲げ、そして「Respect尊重(他者の尊重)、Integrity 誠実(企業理念を胸に)、Care ケア(患者さんへの想い)、Quality 品質(優れた仕事へののこだわり)、Creativity 創造力(イノベーションの追求)」というコアバリューズを非常に大切にしています。
まず会社全体として、これらが社員一人ひとりにしっかりと浸透していることが、組織変革を進める上で、大きな助けとなりました。「我々の会社にとってプラスになるんだ」と目指すものに対する合意を形成することで、大きな抵抗感などもなく、変革を進めていくことができたのではないかと思います。

加えて、ファイナンス関連部門全体を見ると、「それぞれが意見を遠慮せずに出し合う」というカルチャーがあると思います。
グローバルのミーティングなどでも、私は「みんなが言いたいことを言える」場にすることを重要視しています。例えば、誰かに口火を切ってもらうよう促したり、思うことを自由に話す人に最初に質問したりして、「思ったことを言って大丈夫なんだ」とみんなが自然と感じて意見を出しやすい雰囲気を作るよう、意識しています。
時には意見が合わずヒートアップすることもありますが、それでもみんなが思うことをきちんと言って議論を重ねることで、最後にはみんなが「やろう」と合意できるようになります。こうした私たちの部門の、ある意味カルチャーともいえる特徴も、議論を尽くして前に進むためにプラスになったと感じています。
議論を重ねて理解を得て、自分自身も柔軟に変化することで前に進める
―今回に限らず、組織変革を実行する際、チームを率いる立場として意識されている点はありますか。
萩本様:一番は、相手の理解と納得を得るために、顔を突き合わせて何度もしっかりと話合うことです。何かものごとを変えたりトランスフォーメーションを進めたりする際、伝えた瞬間に納得してくれる人はほとんどいません。最初は「え?なぜ?」という反応が返ってきます。
それでも、一生懸命に説明していくうちに、だんだんと理解が広がっていきます。まずは、「何をやりたいのか」を、できるだけ分かりやすく説明する。そして、「なぜ、それをしなければならないのか」をクリアにする。自分としては当たり前だと思っていることでも、いろいろな人に話すと、必ずしもそうではないのだという自分自身の気づきもあります。
多少の時間がかかってでもここを明確にしっかりと対応する方が、後々のプロジェクトもスムーズに進行すると思います。
―まずはしっかりと理解を得るために時間をかけて話をされるのですね。
萩本様:そうですね。話し方も意識をしています。動画チャンネルで紹介している伝わるスピーチの仕方などを参考にして、特にプロジェクトのキックオフなどの重要な場では、話し方の構成を練るようにしています。
もちろん、人数が多ければ多いほど、一回で終わらずに何回も集まる機会を設けることが必要になります。最初は多くの人たちが反対をしてまとまりがなくても、会を重ねて根気強く話し合ううちに、「そこまで言うならわかった、なんとかがんばろう」と、場の空気が変わったなと感じることがあります。そうすると、次は変える前提でいろいろな質問が出るようになってきます。そこまでいくと、「これでうまくいきそうだな」と思うことができますね。

―プロジェクトを円滑に進めるために、注意されている点はありますか。
萩本様:過去に経験したプロジェクトなども振り返ってあらためて思うのは、個人としてどんなに優秀であったとしても、チームとして目指す方向に一緒に向かって仕事ができない人は、結局、どこかで変革を妨げてしまうということです。議論を重ねて最後にみんなでがんばろうと合意をしようとしたときに、水をさしてしまうようなことが起こってしまいます。そうしたメンバーがいる際は、チームとしての力を最大化するためにも、トップとしてその人にプロジェクトからはずれてもらうという決断も必要になると思います。
―最後に、組織変革に取り組む企業の方々に向けて、アドバイスやメッセージをお願いできますか。

萩本様:私自身、今現在もいろいろと試行錯誤しながら取り組んでいる最中なので、何かをアドバイスする立場ではありません(笑)。
あえて経験から私なりに感じたことをお伝えすると、変革には、自分自身も柔軟に変化することを意識することが大事なのではないか、と感じています。ものごとを変えるというのは、ワクワクするエキサイティングな面がある一方で、万が一失敗したらどうしよう、と怖さを感じる部分もあります。
さらには、なかなかみんなの理解が得られない、自分が思い描いていた通りに進まない、など、いろいろと壁にぶつかることもあるかと思います。
そうした怖さや課題を乗り越えるために必要なのが、自分自身の変化ではないでしょうか。
こうなるはずだ、こうあるべきだという自分の思いにこだわり固執しすぎてしまうと、何かが起きたときに前に進めなくなってしまいます。何かを変える時には、自分自身も変わることを意識すると良いのではないかと思います。
編集後記-チェンジマネジメントの視点
萩本氏が推進された国内ファイナンス関連部門の組織改編には、
チェンジマネジメントで大切にされている考え方が随所に表れていると感じました。
まず、既存のカルチャーや理念を尊重し、それを土台に変革を進めている点です。
自分のやり方を前面に出すのではなく、組織にすでに根づいているものを大切にしながら、
納得感を積み重ねて前に進められています。
また、変革を進める過程では、全員の意見を尊重しつつも、
足並みがそろわない状態を放置せず、チームとして前に進める状態をつくる責任を
リーダーとして担われています。
合意を大切にしながらも、前進に必要な判断を行う姿勢が一貫しています。
そして特に印象に残ったのが、「自分自身が変わる」という姿勢です。
こうあるべきだという考えに固執せず、状況に応じて自らの前提や関わり方を見直していく。
リーダーのその柔軟さが、変革を前に進める力になります。
これらのチェンジマネジメントの捉え方が、変革に向き合う際の一つの視点として、
皆様のヒントになれば幸いです。