「医療を通じて社会に貢献する」を企業理念に掲げ、国内外で事業を展開している、大手医療機器メーカーのテルモ株式会社。100年以上の歴史を誇りながらも、時代の変化や医療現場のニーズに対応し、成長を続けています。

「チェンジリーダーズ」は組織の変革を実践したリーダーの方からお話を伺い、企業のチェンジマネジメント実行のためのヒントを探る企画です。

今回は、ソニーからテルモ株式会社に転身し、CFOならびにCIOを務める経営役員の萩本仁氏に伺ったインタビュー内容をもとに、2回にわたって萩本氏が携わった組織変革の取り組みについてお伝えします。

前編の本稿は、間接部門の最適化に向けた、新組織「グローバルビジネスサービス(GBS)」の立ち上げがテーマです。海外買収によって各地域・事業が個別に行っていた経理業務の一部を本社に集約するプロジェクトをすすめる上で、萩本氏が重要視したポイントはどこにあったのか、お話を伺いました。 


テルモ株式会社
経営役員 CFO兼CIO
萩本 仁 (はぎもと じん)

1996年、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)入社。東京本社・米国・欧州にて、経営管理、組織変革プログラムの立案・推進、新規ネットワーク事業の立ち上げ、情報システム分野の業務に従事。ソニー・インタラクティブエンタテインメントではゲーム事業CFO兼コーポレートITシステム担当役員を務め、米国グループ本社では事業横断のDX戦略および欧米のIT業務を担当。

2022年にテルモ株式会社入社。2024年より経営役員CFO、2025年からCIOを兼任。

海外グループ企業の経理部門を集約し、組織と業務の最適化を目指す

― 萩本様は現在、CFOとして間接部門に関する組織変革をグローバルにすすめていらっしゃいます。最初に、そちらの組織変革に着手した背景、目的について、教えていただけますか。

萩本様:テルモは2026年度を最終年度とする5か年成長戦略において、全社の収益改善に取り組んでいます。私はその全社収益性改善のプログラムのリードとして2022年に入社し、いくつかのワークストリームの各担当の方々と協業しつつ、中でも間接部門の改善に関しては直接担当しております。

間接部門の最適化を考える中で、着手したことの一つが、グローバルで経理などの機能の一部を集約化することでした。当社は積極的に海外企業のM&Aを行っており、規模の拡大とグローバル化が加速しています。そのため、買収した企業それぞれに経理部門が存在し、業務を行っている、というのがかつての姿でした。

事業が全世界に拡大していく中では、どのように海外を含んだオペレーションを連携していけるのかが、プロセスの最適化や収益改善の大きなポイントの一つになります。これに向け、グローバルビジネスサービス(GBS)というCFO直轄の部門を新設して、まずは、それまで個々で行っていた経理のオペレーション業務を集約し、グループで1つの体制で行えるように取り組んでいます。

―集約化を進める上で、組織変革の観点から感じた課題はありますか。

萩本様:まずは、取り組みの必要性を理解してもらうことが必要でした。

各社・各事業で日々経理部門がオペレーションをしていて、特に何か問題が起きたわけではありません。CFOの立場で、全社として最適な形にするためにはやるべきだと判断できますが、現地で業務を担当している方からすると、一見、必要がない変化です。「今のままで問題ないのに、なぜ変えないといけないのか?」と疑問を感じるのも当然です。

実は、GBSのコンセプトは、私が入社する前からありました。しかし、議論は進んでいたものの、各事業の理解度の問題もあり、なかなか具体的に前に進めないという状況がありました。それを聞き、まずは現地の方たち、海外子会社のCEOやCFOの皆さんの理解を得ることが必要だと感じ、世界各国を行脚して、話をして回りました。

―トップと顔を突き合わせてお話するため、萩本様自身が直接現地に行ったんですね。皆さんの反応はどうでしたか。

萩本様:最初はやはり、各子会社のCEOもCFOも「本社に組織を作って集約するなんて、そもそもそんなことができるのか」と、かなり懐疑的でした。

まずは、取り組みの必要性を合意する必要があります。何を目指しどのようなことをしようとしているのか、そして集約化で何が実現するのかという目指す姿を何度も議論しました。話を重ねていくうちに、徐々に「そこまで言うならやろう」という姿勢に変化していき、プロジェクトがスタートしました。

変革で意識した二つのポイント
内部から責任者を出し、最初のモデルケースを作る

―合意を取りつけた後、実際の取り組みとしては、具体的に何からスタートしたのでしょうか。進め方で意識した点はありますか。

萩本様:ポイントの一つは、新しい組織の責任者を公募し、元ある組織の中から選出したことです。

プロジェクトを進めるためには、それを率いるリーダーが必要です。しかし、こちらが勝手に任命したり、それまで一緒にやってきていない人財を外から連れてきたりすると、不要なハレーションが起きる懸念もあります。

既存メンバーの中から我こそはという人に手を挙げてもらって、中にいる人たちが、「この人ならば」と納得できる人を責任者にして、プロジェクトを円滑に推進できる体制を意識しました。

内部の人財に責任者を務めてもらうことで、中で仕事をする方たちのモチベーション向上にもつながっています。

各地域・業務個別でやっていた業務を集約化することで、当然ながら新しい部署としてはその業務についてグループ全体に関わることになります。それまである一つの地域の責任者だった人がグループ全体を見るようになるわけです。自分たちの中から出たリーダーが、活躍の幅を大きく広げる様子を実感できることも、メリットとしてあったと感じています。

それから、いきなりすべての経理オペレーションを集約するのではなく、まずは比較的集約化のハードルが低いところからスタートしました。

最初に行ったのは、「P2P(Procure-to-Pay)」と呼ばれる、調達から支払いまでの一連の経理業務を集約することです。P2Pは事業や地域による個別の要素はあまりなく、ある意味ユニバーサルに標準的な活動であるので、まずはその業務を統合することから始めました。入りやすいところから始めて、成功のモデルケースを作る、というのもポイントの一つですね。

―最初のモデルケースを作る過程で、気を付けられたことはありますか。

萩本様:最初のケースに関しては、都度CEOやCFOと話をしてフィードバックを行いながら、一つひとつ問題をつぶしながら慎重に進めました。

私はどちらかというとせっかちな性格で、ゴールを決めたら、明日にでも始めようとどんどん進めたくなってしまいがちなのですが、今回は人数も規模も大きな取り組みです。もちろんスピード感も大切ですが、最初のモデルケースに関しては特に、関係者の理解を得ながら、多少時間がかかってでもやるべきことを丁寧に進めていきました。

変革の山場で、組織は試される
意識をひとつにし、前進できる組織をどうつくるか

―時間をかけてでも慎重に進めようとお考えになった理由として、「あの時ああすればよかった」と感じるような過去のご経験などもあるのでしょうか。

萩本様:失敗もいろいろとありますよ(笑)。やはり、大きなプロジェクトを進める過程で、気になることがあったり、つじつまが合わない報告が上がったりしたときに、その違和感をほっておくと、大体あとから問題となってしまいます。振り返ると、「あの時、もう少し深堀しておけば、もっとうまくいったかもしれないな」と反省することがありますね。

もちろん、確認したら大したことなかった、ということも多いのですが、自分の中に芽生えた小さな違和感と向き合って、「これは大丈夫」と次に進めるか、時間をかけてでも立ち止まって対応するか、それを判断するのは一番難しい点だと思います。それをいかに感覚的にわかるようになるかは、そのプロジェクトチームで多くの経験を共有して、お互いの信頼関係を構築できているか、という点もあるかもしれません。

―組織を変革するプロセスにおいて、特に関わる方たちの心情に重きをおいてきめ細かな配慮をなさっていると感じます。

萩本様:そうですね。前職も含め、いくつか組織変革が必要なプロジェクトに携わりましたが、メンバーの意識はそのプロジェクトがうまくいくかどうかを左右する、非常に重要な要素の1つだと思います。

どんなプロジェクトでも、大変な局面、いわゆる「山場」がありますが、その山場が出てきたとき、お互い意見を言い合って最終的に「よしがんばろう」となるか、「もうこんなのやっていられない」となってしまうか。これはプロジェクトの成否を左右する大きな要素です。

やはり、なぜこのプロジェクトが必要なのかをわかりやすく伝え、理解を得ながらすすめることが必要だと思います。

―GBSのプロジェクトの現在の状況、今後に向けた展望をお聞かせいただけますか。

萩本様:来年度が5か年成長戦略の最終年度になるので、GBSのプロジェクトに関しても来年度中に完了するよう、現在取り組んでいる最中です。今の状況とすると、ほぼすべての地域でP2P領域は集約できました。場所によって進捗に差がある部分もあるので、そこを今期から来期にかけて進めていきます。GBSの組織体制や各々の責任者も決定し、あとはこのメンバーで残る法人や地域の対応を一気に進める、という段階ですね。

いくつか難しい局面も残っていますが、そこについては、いつ誰に向けてどのようなメッセージを出すのか、タイミングや内容についても慎重に練って、みんなが前を向いて取り組めるようにすすめようと考えています。

最初のモデルケースを通じて、基本的な進め方を確立できましたし、気を付けるポイントも理解できました。その学びを生かして、残りの部分もしっかり取り組んでいきたいと思います。

GBSの取り組みを経験したことで、間接部門をグローバル化する際のステップやポイントという貴重な知見を蓄積することができました。今後は、私が担当しているファイナンス領域において、さらなるグローバルでの最適化を広げていければと考えています。

編集後記-チェンジマネジメントの視点 

グローバルビジネスサービス(GBS)の立ち上げを、チェンジマネジメントの視点で捉えると、萩本氏がチェンジマネジメントの要諦を実践されていると感じました。特に以下の点がポイントになっています。

まずは、「なぜ変わるのかを腹落ちするまで対話すること」。
全社最適という結論を急ぐのではなく、海外子会社のトップと向き合い、
変革の必要性(WHY)を丁寧に共有するところから始められています。

次に、「社内の人財を、変革の主役にすること」。
新組織のリーダーを手挙げ式で募り、変革への関わり方を自ら選べる状態をつくることで、
事者意識が自然と生まれる環境を整えていったことが読み取れます。
さらに、その姿がロールモデルとなり、
周囲のメンバーにとってもキャリアの選択肢が広がっていくことにつながっています。

加えて、「小さな成功を積み重ね、道筋を描くこと」。
集約しやすい領域から着手して成功体験を重ねることで、
不安を和らげながら「自分たちならやれる」という感覚を少しずつ広げていった点も特徴的です。

そして、「チームの関係性を整えること」。
施策を進める以前に対話を重ね、信頼関係を築き、
山場を越えられる関係性を先につくることに重きを置かれていました。

これらのチェンジマネジメントのポイントが、皆様の参考になれば幸いです。

変革を前に進めるための視点を、実践できる力へ
組織変革を推進する立場として、人と組織を動かすチェンジマネジメントの実践知を身につけたい方へ。
WHYの腹落ち、当事者意識の醸成、小さな成功の積み重ねなど、チェンジマネジメントを、現場で使える形で体系的に学びます。